北海道から沖縄まで、ふるさとの「名低山」100座を山岳ガイド協会所属のプロが紹介した『日本百低山』(日本山岳ガイド協会編)より、各都道府県の「名低山」をご紹介。
第33回は、岡山の「名低山」毛無山、鬼城山から、「鬼城山」を。
鬼城山 kinojozan 総社市 397m
古代の山城跡、歴史の散歩道
瀬戸内海、四国まで遠望
岡山県の中央部に広がる吉備高原。その南端に位置するこの山は近年、発掘調査により徐々に全容が解明された広い意味での古代朝鮮式山城跡だ。一般的には「鬼ノ城」と呼ばれ、1986年に国史跡指定を受けて多くの歴史愛好家やハイカーが訪れるようになった。
すり鉢を伏せたような山容が特徴。山腹斜面は急峻だが、山頂部は平たん。8合目から9合目にかけて、土を盛った土塁が約3キロにわたって鉢巻き状に巡り、城内は約30 ヘクタールにも及ぶ。
『日本書紀』では、7世紀の朝鮮半島動乱で、百済に援軍を送った大和朝廷は663年の白村江の戦いで唐・新羅の連合軍に大敗。日本侵攻を恐れた朝廷は、北九州から瀬戸内沿岸、畿内まで防衛の山城を築いたという記録があり、鬼ノ城もそれらの一つではないかと考えられている。眼下には古代吉備国の中心部だった総社平野が広がり、快晴時には瀬戸内海の島々や四国の山並みが遠望できる。
公共交通機関利用なら、JR服部駅から北へ砂川公園キャンプ場を経て、登山口の鬼城山ビジターセンターまで約5キロ。同センターはトイレが利用でき、地形模型や映像、パネル展示などで鬼ノ城の歴史を分かりやすく解説している。マイカーの場合はここの駐車場を利用するとよい。ビジターセンターから遊歩道に入り、西門までは10分ほど。復元された3層構造の西門と北側に隣接する角楼のすぐ裏手が山頂。西門に戻り、さらに遊歩道を進んで六つの水門や南門、東門遺構を見て「屏風折れの石垣」へ。この石垣は城外へ鋭く張り出した城の一部で、威圧感あふれる天然要塞の景観を醸し出している。
反時計回りに、出発から北門までゆっくり歩いて1時間半。体力に余裕があれば城域から出て、一度下って市道を渡り、北西側の岩屋休憩所(トイレ、駐車場あり)を目指そう。巨岩、奇岩が目を引く「鬼の差し上げ岩」「八畳岩」や馬頭観音などを回り、展望スポットの犬墓山(443メートル)へ縦走。鬼ノ城北面を眺めながらビジターセンターへ戻るコースは、冬の日だまりハイクにうってつけだ。
(日本山岳ガイド協会正会員 村上伸祐)
ガイドの目
この山には古代吉備国を平定したといわれる吉備津彦命が、山に住む「温羅」という鬼を退治したという言い伝えが残る。まるで桃太郎伝説のモチーフである。地名の由来とされ、古代のロマンを感じさせる。
子どもたちに桃太郎の昔話を紹介し、ファミリー登山を楽しむのも一興だ。鬼ノ城一周だけなら急坂は少なく、運動靴でも歩ける。岡山は冬場も晴天の日が多く、登山後はこの季節ならではのB級グルメ、カキのお好み焼き「カキオコ」が人気だ。
参考タイム
ビジターセンター(10分)−西門・山頂(30分)−屏風折れの石垣(20分)−北門(30分)−岩屋休憩所(15分)−鬼の差し上げ岩(1時間)−犬墓山(15分)−ビジターセンター
日本百低山
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