北海道から沖縄まで、ふるさとの「名低山」100座を山岳ガイド協会所属のプロが紹介した『日本百低山』(日本山岳ガイド協会編)より、各都道府県の「名低山」をご紹介。
第35回は、山口の「名低山」寂地山、東鳳翩山から、「寂地山」を。
寂地山 jakuchisan 山口・岩国市、島根・吉賀町、益田町 1337m
秋を味わう木漏れ日の山
紅葉、清流、山口最高峰
西中国山地国定公園にあり、山口県の最高峰である。山口、島根、広島の3県の県境地帯に当たる。山頂付近のブナ原生林は優しい雰囲気をもち、花こう岩がつくりだす数々の滝を掛ける寂地川は、日本名水百選に選ばれている清流だ。新緑、紅葉など春から晩秋まで楽しめる。
登山は売店と案内所「やませみ」があるキャンプ場駐車場から始まる。林道沿いを上流に少し進むと入り口の看板がある。今回は寂地峡を代表する五つの大きな滝が連続する渓流「竜ケ岳峡」沿いのBコースから登る。
谷間に滝の音が響く。道は整備されてはいるものの、水しぶきで湿って、段差も大きく、滑りやすいので慎重に。一気に標高をかせぐと登山道は丁字となる。左右は手掘りの跡も生々しい「木馬トンネル」。これは材木を運び出すのに使われた名残だ。ここを右に進む。トンネルは低いので頭をぶつけないように注意しよう。
沢沿いの気持ちの良い登山道を進むと橋があり、寂地山へ向かう道と、2016年時点で通行止めとなっているCコースの分岐となる。瀬音と広葉樹の美しい登山道が続く。標高千メートル付近になると水流が細く穏やかになりブナの大木が出てくる。これから向かう寂地山と右谷山(1234メートル)との分岐「みのこし峠」までひと登りだ。
峠から先は落葉広葉樹のなだらかな尾根。4月下旬にはカタクリが咲き乱れ、登山者が多い。落ち葉を踏み、こずえからのぞく秋の青空と木漏れ日の中の山歩きは、秋の味わいが深い。小さなアップダウンを繰り返すと寂地林道への下山道分岐。もう寂地山頂はすぐだ。ブナとミズナラの巨木が立つ頂上はなだらかで自己主張がない。テーブルとベンチもあるので昼食を済ませたら、来た道を分岐まで引き返そう。分岐から左へ下ると杉の天然林が現れる。よく手入れされた山道が沢に近づくあたりで橋をわたると寂地林道の終点。林道を20分ほど下り、犬戻遊歩道へ。今回のフィナーレ「犬戻の滝」を見て林道に戻る。キャンプ場登山口まで30分ほど、クールダウンしながらのんびり下ろう。
(日本山岳ガイド協会正会員 加藤智二)
ガイドの目
秋に登る場合は日が短くなる上、沢沿いや深い森の登山道はあっという間に薄暗くなる。疲労も重なり、転倒によるけがも多くなりがちだ。下山途中にも栄養補給できる行動食を取ると元気が出るのでお勧めだ。ヘッドランプも必ず持参してほしい。
コテージやシャワー施設が整った寂地峡キャンプ場でキャンプをするとより充実する。営業は11月いっぱい。
アクセスにはマイカーが便利。中国自動車道吉和インターを出て国道186号から434号の松ノ木峠経由で向かう。
参考タイム
キャンプ場登山口(30分)−木馬トンネル(2時間)−みのこし峠(1時間20分)−寂地山(50分)−林道終点登山口(20分)−犬戻遊歩道入り口(1時間)−キャンプ場登山口
日本百低山
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