9月20日、「東芝取締役会で半導体事業の売却先決定」というニュースが大きく報じられました。
そもそも、稼ぎ頭である半導体事業をなぜ売却するのか? なぜ東芝はここまで転落したのか? 20年にわたる徹底取材から、その全真相を明らかにした調査報道ノンフィクション『東芝の悲劇』が発売になりました。
刊行にあたり、著者の大鹿靖明さんから寄せられたメッセージです。
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日本を代表する名門企業の東芝が、いま断末魔にあえいでいる。
2015年に長年にわたる粉飾決算が発覚し、さらに高値づかみした米原発メーカー、ウェスチングハウスを減損処理した。ウェスチングハウスの損を穴埋めするため、東芝は、虎の子の医療機器部門、東芝メディカルシステムズをキヤノンに売却したのを始め、子会社や事業を続々切り売りしていった。いったんは、それでしのいだかに見えたが、2017年に入ってウェスチングハウスが経営破綻し、再び被った巨額損失の穴埋めのため、今度は国際競争力を有する半導体部門、東芝メモリを売却する羽目に陥った。東芝メモリの売却交渉は二転三転、交渉開始から半年以上たってやっと売却先は決まったが、この先どうなるかはまだ分からない。
いったい、なぜ東芝は凋落したのか――。その疑問に答えようとしたのが本書である。
東芝は、経済環境の激変や技術革新の進化に追いつけず、競争から落伍したわけではない。突如、強大なライバルが出現し、市場から駆逐されたわけでもない。その凋落と崩壊は、ひとえに歴代トップに人材を得なかったためであった。すなわち「人災」である。東芝の悲劇であった。
死ぬまで社内権力を手放したがらない西室泰三、無謀な高値でウェスチングハウスを買収し、粉飾の原因をつくった西田厚聰、そして福島第一原発事故後も原発重視の方針を修正できなかったうえ、粉飾を急拡大させた佐々木則夫。この3人が「戦犯」である。3人に共通するのは、会社や社員のことよりも、財界活動など自身の地位や名誉に執心しがちなことだった。その地位や名誉が、20万人の社員の働きによってもたらされているにもかかわらず、である。
もともと東芝は本流の重電部門出身者が社長に起用されてきたが、ココム事件が番狂わせを生み、やがて傍流の国際営業畑出身の西室泰三が社長に就任した。従来の人事秩序を覆す抜擢人事だった。西室は同じ国際営業畑出身の西田に目をかけて抜擢する。「お公家さん」と呼ばれるほど穏やかだった東芝の社風は次第に変貌していった。製造の現場を知らない国際営業畑出身者の登用は、製造や技術の軽視、さらには中立性が重要な経理や人事の原則の無視となって現れ、西田の時代は国際営業畑出身者への極端な偏重人事が進んでいった。
西田の時代の大きな経営判断が、冒険主義的とも言える無謀な高値によるウェスチングハウスの買収で、その片棒を担いだのが佐々木だった。佐々木の出身母体の原子力部門は、実は重電を本流とする東芝の中でも「聖域化」された部署で、電力業界や経済産業省とつるんで特異な「原子力村」を構成してきた。周囲の不安視する声をよそに佐々木が社長に抜擢されると、彼は暴走し、自身の業績を誇示するために粉飾を拡大。原発一筋に歩んできた佐々木にとって、原発事故は己を否定するような出来事といえ、そうであるがゆえに事故の影響を等閑視し、いっそう原発にのめりこんだ。
かくして傍流や異端の人物によって東芝は破壊されていった。だが、穏やかな社風の東芝の、温和で従順な社員には、こうした独裁者や暴君を排する気概をもった人物が乏しかった。
それも東芝の悲劇だった。
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名誉欲。嫉妬。保身。責任逃れ。社員20万人を擁する名門企業のかくも無様なトップたち――まさに今、あなたの会社でも起きているかもしれない衝撃の現実に迫った『東芝の悲劇』。ぜひご一読いただけると幸いです。
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