スーツ姿にリュックは非常識なのか? 職場でノンアルコールビールを飲むことは許されないこと? やっぱり男が女におごらねばならないのか?……線引きがよくわからない現代社会のルール。最近は、ますます複雑化しています。
9月29日に電子書籍で発売された『あの人は、なぜあなたをモヤモヤさせるのか』は、恋愛、仕事、悪女、マナーの4つの角度から、世の中の「常識」と「普通」を解体。スッキリとタメになる本書の一部、まずは「はじめに」をお届けします。
この世はモヤモヤで溢れている
「趣味は人間観察」と聞くと、いかにも安っぽく感じるかもしれないが、そうとしか表現しようがないから仕方がない。カフェの隣の席で怪しげな勧誘をしている若い女性、バーで女性を口説こうとしている40代後半の小太りなおじさん。おじさんは、弁護士事務所に勤務していると名乗っているけど、手相占いと称して女性の手に触ろうとするその行動は、法律的にセーフなのだろうか。
また、駅のホームで固く抱擁しながら海藻のように揺れている謎のカップルにもよく目がいく。大人なんだから終電を気にせずにホテルにでも行けばいいと思うが、そうもいかないのだろう。もしかしたら、不倫なのかもしれない。それにしても、この手のカップルに美男美女が少ないような気がするのは、なぜなのだろうか。
プライベートだけではなく、仕事をしていても気になることが次から次へと出てくる。特に、会社組織には理不尽なことが多く、理不尽な慣習を真に受けた人たちが、妙な言動に出ることが多い。その度に、筆者の頭はモヤモヤする。
とにかく、いろいろな人が気になって仕方がない。少し前に、移動しながら働くノマドワーカーという新しい形態が流行ったようだが、筆者にはとても無理である。なぜなら、周りの人たちが気になって、仕事に集中できないからだ。人間観察は筆者のライフワークであり、一方で難儀な性格でもある。スルーすればすむことを、スルーすることができない。どうしてもアンテナが反応してしまうのだ。時にはこの性格が災いして、面倒な事態に陥ることすらある。
本書は、そんな筆者が「人間観察」した結果をまとめたものである。過去さまざまなメディアに書いたコラムを加筆・修正し、電子書籍という形で再構成した。
時には、筆者が感じたモヤモヤを提示した結果、よけいにモヤモヤするといった事態に陥ることがあるかもしれない。しかし、だからといってページを閉じず、できれば最後まで筆者のモヤモヤに付き合ってほしいものだ。モヤモヤをモヤモヤのままにせず、しっかり言語化することにより、モヤモヤを公然のものとして共有することこそが筆者が目指していたことである。あなただけがモヤモヤしているわけではない。みんながモヤモヤしているのである。まずは、その認識を共有することから始めたい。
特に、移り変わりの早い世の中では、常識やマナーといったものがしっかり定まる前に、現象だけが定着してしまうから、話はややこしくなる。たとえば、本書でも触れる「ノンアルコールビール」の問題がそれである。ノンアルコールビールはアルコールが入っていないため、時と場所、場合(TPO)を問わずに飲めることが魅力の一つだ。しかし、これを職場の休み時間に飲んでいいかといったら、また別問題である。
今のところの“常識”では、職場でノンアルコールビールを飲むことはNGとなっているため、堂々とノンアルを飲む度胸が据わった人を見ると、誰もがモヤモヤした思いを抱えることであろう。その感覚は、間違っていない。しかし、アルコールが入っていないジュースのようなものだから、いつ、どこで飲もうが勝手なのではないかと考える人も、一定数はいるはずだ。時と場所、場合を問わず、気軽に飲めることが、ノンアルの魅力ではなかったのか、と。
つまり、「なぜ、職場でノンアルを飲む人にモヤモヤするのか」ということが第一の疑問だとすると、その裏には「そもそも、なぜ職場でノンアルを飲むのがNGなのか」といった根本的な疑問が横たわっているのだ。職場での非常識な行為にはモヤモヤするが、一方でなぜそれが非常識なのかと問われると、それに対してもモヤモヤする。
一つだけ言えるのは、意識的な常識やマナーは意識的に修正できるが、無意識的なそれは容易に変更できない、ということだ。こうした評価が定まっていない新しい“常識”も、筆者の観察対象である。
それでは早速、筆者が遭遇した“モヤモヤ”を見ていこうと思う。本書を読み終わる頃には、あなたの心が少しはスッキリしていることを切に祈りつつ。
(『あの人は、なぜあなたをモヤモヤさせるのか』「まえがき」より)