この度、阿佐ヶ谷姉妹の初書籍『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』が発売になりました!本サイトの連載エッセイはもちろん、書き下ろしのエッセイと小説も加わった盛りだくさんな内容。こちらのリバイバル掲載をお楽しみ頂きつつ、ぜひ書店でお探し頂けたら幸いです。
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姉妹の物件探しは続いております。
私は、部屋が狭い狭いと思いながらも、二人暮らしの味わいも嫌いでなく。
性格的に優柔不断な所もあるので、本当に引っ越ししたいのかしら、でも狭いし、でも今の場所を離れてまで良いと思える所なんてあるのかしら、う〜んでも狭いし、と逡巡しつつ。
みほさんの引越しへのノリノリさ加減に引っぱられる形で、重い腰を上げ始めました。
私が健康体操教室カーブスに向かう途中、不動産屋さんの貼り紙で見つけた物件の話については、みほさんの方があれこれ覚えているようなのでおまかせするとして、私側から見た、内見の道のりを今回は書かせていただきます。
私達が物件を探しているという話は、テレビやご近所の井戸端話で、いつの間にかそれとなく広まっていたようで。行き帰りの道すがら、「新しいとこ探してるんだって?」「阿佐ヶ谷はなかなかいいの出てこないでしょう、いい所はみんな長く住み着いちゃうから」「何かいい話聞いたら教えてあげるね」などと言っていただく事も増えてきました。さすが、アットホーム阿佐ヶ谷。
お話を聞いているうちに、阿佐ヶ谷は単身者向けのワンルームや1Kが割と多く、それ以上の二人暮らしやファミリー向けの物件は、ほとんど埋まってしまっていてあまり出てこない街だという事がわかりました。さすがさすが、最近、住みたい街ランキング4位まで上ってきた阿佐ヶ谷です。
もちろん、希望お家賃の上限を上げれば、引っかかってくるものは増えますでしょう。しかしながら、明日はどうなるか分からないこの商売です。来月またコールセンターや富士そばのアルバイトに戻るやもしれず、そうなるとよく聞く「芸人たるもの、どんどんお高い所に住んで、ステータスを上げていくんやで!」という説にはなかなか簡単に乗っかれない、というのが二人の総意でした。
ネットに出ている見取り図ばかり見ていると、どれがよいのか分からなくなってきて、みほさんも私もうなってばかり。こうなったら色々内見させてもらいましょうとなりました。
三件見せていただいた日の事です。
最初の物件は、お墓の前だという事で、価格設定が安くなっていました。
今のアパートからさらに駅近になって、5階か6階で、二間あってキッチン設備もしっかりしていて、お墓も見えづらい角部屋で、みほさんも「私はお墓とか、全然大丈夫ですけど」となぜか自信たっぷりに宣言をしてくれて、最初は悪くないかしらと。
ただ、お手洗いの窓が転落防止の為か、どうにもこうにも二センチくらいしか開かない窓で、そこに西陽がカーッと。行った事はないのですが、なぜか留置所のお手洗いってこんな感じなのでは? と思ったりしてしまって、結局決められませんでした。
続いて伺ったのは閑静な住宅が立ち並ぶ南口。ベランダにも両部屋から出られて、過ごしやすそう。ただ、なぜか玄関のドアが、塗り直したのか内側だけすごく水色。みほさんは、「私は水色、大丈夫ですけど」とこれまた高らかに宣言。
さてベランダに出てみると、二人の視界のすぐ先に、とある大学の有名相撲部のお稽古場が見えました。
日も暮れかかった時間に、うっすら見える干されたまわし達。
まわしもお相撲も嫌いではないけれど、あちらのまわしがこちらから見えるという事は、あちらから見ようとしたら、こちらのまわし的なものも見えてしまうのではないかしら。
いや、こちら側のまわし的なものって何? という問いはさておき、結局こちらも保留に致しました。
最後は今までで一番駅から離れていましたが、10分圏内で三階建の最上階、しかも各階に一室しかない作りで三方向からの採光が。
しかも収納やお部屋の仕切りもバッチリで、一番ゆったり暮らせそうな間取りでした。
ただ……そちらの建物の名前が、
「レジ●ンス荻窪」。
荻窪? 阿佐ヶ谷姉妹なのに、おぎくぼ? 住所は確かに阿佐ヶ谷なのに。荻窪駅にも遠くない位置だからこその名称でしょうか……うむむむむ。
もしも、私達がこちらに住む事になったとしたら、「阿佐ヶ谷姉妹です!」と自己紹介する度に、(でも……住んでるのはレジ●ンス荻窪ですけどね)と心の中でつぶやいてしまいそう。
建物名に荻窪と入っているだけで、どこか後ろめたい気持ちが拭えないとなっては仕事にも差し障りが出そうだわ、と、同行の不動産屋さんに聞こえないようコソコソと話しあい。
同行して下さった不動産屋さんのご担当、お若くて、メガネをかけるも若干明るめのお色味の髪の、爽やかな方。
最初はとてもお優しかったのですが、やはり3件回ってもモジモジボソボソとしている私達に付き合いかねたのか、最後になって「今日中に決めるか、仮押さえしないと、本当にどこも無くなってしまいますよ」と、ぐぐっと猛プッシュをかけられ、日が暮れるとこの方、人格変わっちゃうタイプ? と思う程でした。
日頃から男性に猛プッシュかけられる経験もなく、その営業力にかえって引いてしまった私達。
まるで甲斐性なしの父親の借金取りへの娘の対応みたいに「すみません、あと一晩だけ待って下さい」なんて返答をして、翌日お電話で丁重にお断りしました。
物件探しは奥深いものです。
そんなこんなで、よりしっくり来るおうちを求めて、姉妹の物件探しは続くのでありました。
つづく。(姉・江里子)
阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし
40代、独身、女芸人ふたりの地味おもしろい同居生活エッセイ。
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