どのような本でも、それを本というかたちで世に出したいという人がいなければ、その本は生まれてきません。『365日のほん』の担当編集である河出書房新社の坂上陽子さんは、それ以前にもTitleにお客さまとして何度か来店したことがありました。ある日の開店早々、坂上さんは私の書いた『本屋、はじめました』を買って帰りましたが、その夜パソコンの画面からふと顔を上げると、朝に会ったはずの坂上さんが、なぜだかまたそこにいました。
「辻山さん。本、読み終わりました!すごく面白かったです‼」その本は平易に書いたので、一気に読んだという感想はツイッターなどでもよく目にしましたが、面と向かってわざわざそれを伝えにきた人は初めてです。そうした“勢い”を感じる反応は、書き手からすれば嬉しくて励みになるものです。
「この『2016年の毎日のほん』もとてもよかったです!辻山さんの本の紹介は毎日WEBで見ていますが、こうして紙になるとまた違う説得力があるなと思って……」
「ああ、ありがとうございます」
「それで思ったのですが、これまでにないようなブックガイドがあれば面白いと思います。一つ一つはどこからでも読めるような短い本の紹介ですが、全体を通してみれば一つの大きな流れになっている、読みものとしても読めるような本で……」
聞きながら「えっと、それは書けということなのでしょうか。一冊書き終って、ほっとしているのですけど……」と、うっすら思っているとダメ押しがやってきました。
「弊社で辻山さんの本を作らせて頂けませんでしょうか!」その声は、静かで狭い店内によく響いていました。
実はWEBで更新している「毎日のほん」をまとめたいという依頼はそれまでも受けたことがありましたが、本にするには量が足りないと思っていました。しかしこの依頼には、面白い本が作れそうだという予感があったのと、面と向かってストレートに本の感想を言われることでよい気持ちになっていたのだと思います。「〈毎日のほん〉とは別なものを書くことで、とりあえず考えてみます」と、何となく押し切られたような感じになりました。このことが『365日のほん』の最初の一歩であり、そもそもの志でもありました。
*今月の本屋の時間は「特別編」として(?)『365日のほん』の舞台裏を4回に渡り追いかけます(毎週水曜日更新予定)。次回は8日更新。どのように『365日のほん』の文章を書いたかについて記しました。一冊の本がどのように出来ていくかをお楽しみください。
今回のおすすめ本
全国の書店には11月23日以降に並びはじめますが、TitleのWEBSHOPでもご予約を承っております。ご予約、ご購入のお客さまには特典として「四季のカード」を差し上げます(4枚1セット。1枚はシークレットとして、ある写真家の作品が使われております)。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
○2024年11月15日(金)~ 2024年12月2日(月)Title2階ギャラリー
三好愛個展「ひとでなし」
『ひとでなし』(星野智幸著、文藝春秋刊)刊行記念
東京新聞ほかで連載された星野智幸さんの小説『ひとでなし』が、このたび、文藝春秋より単行本として刊行されました。鮮やかなカバーを飾るのは、新聞連載全416回の挿絵を担当された、三好愛さんの作品です。星野さんたってのご希望により、本書には、中面にも三好さんの挿絵がふんだんに収録されています。今回の展示では、単行本の装画、連載挿絵を多数展示のほか、描きおろしの作品も展示販売。また、本展のために三好さんが作成されたオリジナルグッズ(アクリルキーホルダー、ポストカード)も販売いたします。
※会期中、星野さんと三好さんのトークイベントも開催されます。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【書評】
『決断 そごう・西武61年目のストライキ』寺岡泰博(講談社)ーー「百貨店人」としての誇り[評]辻山良雄
(東京新聞 2024.8.18 掲載)
◯【お知らせ】
我に返る /〈わたし〉になるための読書(3)
「MySCUE(マイスキュー)」
シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第3回が更新されました。今回は〈時間〉や〈世界〉、そして〈自然〉を捉える感覚を新たにさせてくれる3冊を紹介。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。
毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
本屋の時間
東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。