3・11後も強気一辺倒で原子力ビジネスにひた走った佐々木則夫社長。西田厚聰社長時代に始まったバイセル取引を使ったパソコン部門の粉飾は、彼の時代にさらに拡大します。
そして佐々木氏と、彼を社長に引き上げた会長・西田氏の関係が悪化。両者の対立はメディアでも報じられ、業界外まで広く知られる事態に陥ります。
ジャーナリストの大鹿靖明さんは、その様子を著書『東芝の悲劇』で「子供の喧嘩」と評しています。
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〝暴君〞が支配する東芝において、もはや、まともな経営改革は一顧だにされなくなった。2012年9月以降のパソコン部門は四半期決算期末の利益が売上高を上回る異常な事態に陥っていた。利益が売上高より多いというのは通常ありえないことである。
西田の側近だっあた能仲久嗣は、あくまでも彼の言い分だが、「少なくとも私がパソコン部門を見ていた08年度まではバイセル取引を使った不正会計はなかった。全部そのあとですよ」と、佐々木時代に急拡大したことを示唆する(*1)。
佐々木がバイセルの解消はもとより、減損や償却など利益を圧縮することを極端に嫌ったのは、会長の西田との関係が悪化するなか、自身のよりどころを「利益」に求めたからだと思われる。佐々木は財務部の社員にひそかに歴代社長の売上高や利益のランキング表をつくらせ、どの社長が歴代何位なのかわかるよう順位づけた通信簿のようなものを作成した。それによると、岩田弐夫以来の歴代9人の社長の中で、佐々木は営業利益1位、純利益1位、そして税引き前利益と売上高は2位だった。
このランキング表を持参して東芝のドンの西室泰三の部屋を訪れ、佐々木は自分がいかに優れた経営者であるかをアピールしたらしかった。歴代社長ランキング表の中で、西室は営業利益8位、純利益6位、税引き前利益7位と思わしくない成績が記されており、佐々木の自慢話をどんな気持ちで聞いただろう。
「こんなのをもらって、西室さんもびっくりしたでしょうね」と西田は振り返る。「佐々木は、西室さんの前で『私が東芝で利益を一番出しました』と言いたかったのでしょうね。あの表を優秀ぶりを示す尺度だと思っているのですよ(*2)」
佐々木の「一番になりたい」という思いが、東芝の粉飾を拡大させ、減損・償却・引当金計上の回避という悪習を持ち込むことにつながった。
*1 能仲久嗣への取材。2016年3月4日。
*2 久保誠へのインタビュー(2017年7月1日)と西田厚聰への電話取材(2017年6月26日)。
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