2017年のノーベル物理学賞は、「重力波」の観測に成功したアメリカの研究チームが受賞しました。
重力波とは、そもそも何でしょうか? 重力波の存在を予言したアインシュタインは、一般相対性理論で、重力の本質は「空間を歪ませる力」であることを明らかにしました。そして重力によって空間が歪むときに発生するのが「重力波」です。
『重力波とは何か――アインシュタインが奏でる宇宙からのメロディー』の著者で東京大学宇宙線研究所教授、日本の重力波観測施設「KAGRA(かぐら)」を率いる川村静児さんは、「重力波」をこんなふうに説明してくれました。
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重力によって空間が歪むと、どうして重力波が出るのでしょうか。
質量を持つ物体があるとそのまわりの空間が潮汐的に歪みますが、それだけでは重力波は発生しません。この歪んだ空間のことを「重力場」といいます。リンゴをやわらかい座布団の上に置くと、座布団の表面がへこむようなものだと思えばいいでしょう。
座布団のリンゴを動かすとへこみ具合が変わるのと同じように、物体が動くと重力場の様子が変わります。しかしその重力場の変化は、物体の動きと同時に遠くまで伝わるわけではありません。これは、座布団よりも水面の波にたとえたほうがイメージしやすいかもしれません。水面に物体を浮かべると、そこに生じた歪みが「波」となって徐々に遠くまで伝わっていきます。
それと同じように、物体の動きによって空間の歪み方が変わると、それが徐々に波のように広がっていきます。図のように、空間が潮汐的な伸び縮みをくり返しながら、光速で伝わっていくのです。これが、重力波にほかなりません。
重力と重力波の関係は、電磁気力と電磁波の関係とほぼ同じようなものです。電磁波の存在は、19世紀に電磁気学を確立した英国の理論物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェル(1831一〜1879)によって予言されました。そのあたりも、アインシュタインが理論的に予言した重力波と似ています。ドイツの物理学者ハインリヒ・ヘルツ(1857〜1894)によってその電磁波が発見されたのは、1888年のことでした。
電磁波は、プラスやマイナスの電荷を持つ物質が動いたときに発生します。電荷を持つ物質が動くと、そのまわりにある電場に変化が生じ、それが徐々に遠くへ伝わっていく。それが光速で伝わることや、真空中でも伝わることなども、重力波と同じです。
ただし、重力波には電磁波とは異なる性質もいくつかあります。その中でもとくに重要
なのは、重力波が「何でもすり抜ける」という点です。
約138億年前に誕生した宇宙には、およそ38万年間、電磁波(光)がまっすぐに飛べない時代がありました。それは、電磁波がほかの物質と相互作用を起こしやすいからです。
相互作用とは、簡単にいえば「ぶつかる」ということです。初期の宇宙には、電磁波の行く手を邪魔する物質が満ちあふれていました。そのため電磁波が散乱してまっすぐに進むことができず、その時代からは光が地球まで届かないのです。
しかし重力波はほかの物質とほとんど相互作用を起こしません。行く手に何かあってもそれをすり抜けてまっすぐに伝わります。だから、電磁波では見ることのできない時代の宇宙の様子を、重力波なら見ることができるのです。
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いかがでしょうか? お分かりになりましたか? いや、それ以前に、重力の本質を「空間を歪ませる力」で済ませないでほしい、とお思いのかたもいらっしゃるかもしれません。『重力波とは何か――アインシュタインが奏でる宇宙からのメロディー』では、一般相対性理論についても、腹巻アインシュタインおじさんが登場して、解説しています。ぜひお読みいただけると幸いです。
次回は11月16日に公開予定です。
重力波とは何か
2017年のノーベル物理学賞はアメリカの「重力波」観測チームが受賞しました。重力波とは一体何なのか? 重力波の観測にはどんな意義があるのか? 日本の第一人者がわかりやすく解説します。