「手にしていることがしみじみとうれしくなる、〈雑貨〉のような本にしたい」。これが『365日のほん』を作るにあたり、まず考えたことです。実際に店頭で見ていると、いま売れている本にはどこかかわいげがあるものが多いと、以前より感じていました。
しかし、ただ本の紹介文を365冊並べただけでは途中で飽きてしまうことは明らかで、何か飽きさせない工夫が、本の設計として必要です。自分の書く文章は棚に上げ、「この本ではデザイナーさんの仕事が重要になりますね」と、打ち合わせのとき担当編集の坂上陽子さんに話しました。
「どなたか、希望のデザイナーさんはいますか」と坂上さんに聞かれて、まず思い浮かんだのが漆原悠一さんです。漆原さんは文筆家の甲斐みのりさんの本をはじめ、多くのブックデザインを手掛けられており、どの本を見ても実用的でありながらその本の特徴を活かしたレイアウトや文字組が魅力的だと思っていました。http://www.tento-design.jp 坂上さんから依頼して頂いたところ、漆原さんはブックデザインを引き受けてくださるとのこと。これは『365日のほん』にとって、幸先が良い話です。
文章を書く前に、一ページに書く文字量の目安を知りたいと思い、漆原さんに幾つかレイアウトの試作をお願いしました。
最初に挙がってきた案は、左詰めで一文ずつ改行している(1)です。詩のようにも見えますが、何かの格言のようで固い感じがします。一方で、改行をなくし通常の文にした(2)は自然ですが、あとでイラストは入れるにせよページの上部しか使っていない印象はぬぐえません。短かく言い切るような本の紹介文には、白い部分が目立ってさみしい感じがしました。
これを見た坂上さんから、一つ提案が出ました。「文章を少しずつ上下にずらしながら、レイアウトしてみるのはどうでしょうか」
一週間後に送られてきたレイアウトの修正版を見ると、全体の流れに動きが出てくるのが感じられ、大きく印象が変わりました。文を上下にずらすことで、文量の少なさも気にならなくなり、見た目や読後感に、リズムが生まれるようになりました。ジャンルや月の表記を端にまとめ、ページを大きく使うとともに、アイコン表示も入れることで、ページに柔らかさも生まれます。「これでレイアウトは決まった」と、心のなかで密かにガッツポーズが出ました。
『365日のほん』では、季節ごとに違う文脈を作り、そのなかに選んだ本を当てはめています。季節を追うごとに、やわらかな本から次第に本格的な本へと向かうような流れですが、似たようなページが延々と続くのではなく、視覚的にも気持ちの切り替えどころを作りたいと思い、季節により紙の色を変えています。
色のついた紙を使うことはそれだけコストがかかるので「ちょっと難しいですね……」と最初は言われており、諦めていました。しかしこれも漆原さんのアイデアで、印刷の工夫から色味を出していくことにより、理想のものに近づけることができました。プロのかたが出してくる発想には、ただただ驚くばかりです。
今回のおすすめ本
手に取りたくなるような本になりました。全国どこの新刊書店でもご注文、ご購入いただけますが、Titleでご予約、ご購入のお客さまには特典として「四季のカード」を差し上げます(4枚1セット。1枚はシークレットとして、ある写真家の作品が使われております)。現在、続々とご予約をいただき、ありがとうございます!
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
○2024年11月15日(金)~ 2024年12月2日(月)Title2階ギャラリー
三好愛個展「ひとでなし」
『ひとでなし』(星野智幸著、文藝春秋刊)刊行記念
東京新聞ほかで連載された星野智幸さんの小説『ひとでなし』が、このたび、文藝春秋より単行本として刊行されました。鮮やかなカバーを飾るのは、新聞連載全416回の挿絵を担当された、三好愛さんの作品です。星野さんたってのご希望により、本書には、中面にも三好さんの挿絵がふんだんに収録されています。今回の展示では、単行本の装画、連載挿絵を多数展示のほか、描きおろしの作品も展示販売。また、本展のために三好さんが作成されたオリジナルグッズ(アクリルキーホルダー、ポストカード)も販売いたします。
※会期中、星野さんと三好さんのトークイベントも開催されます。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【書評】
『決断 そごう・西武61年目のストライキ』寺岡泰博(講談社)ーー「百貨店人」としての誇り[評]辻山良雄
(東京新聞 2024.8.18 掲載)
◯【お知らせ】
我に返る /〈わたし〉になるための読書(3)
「MySCUE(マイスキュー)」
シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第3回が更新されました。今回は〈時間〉や〈世界〉、そして〈自然〉を捉える感覚を新たにさせてくれる3冊を紹介。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。
毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
本屋の時間
東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。