ライター・尾崎ムギ子、35歳。“人生で彼氏いたことある歴”4ヶ月半。自分でも一生恋愛できる気がせず、最後の頼みの綱として、『生き抜くための恋愛相談』(イースト・プレス)の著者である桃山商事の清田代表と森田専務に失恋ホストをお願いした。
前編では、そんなわたしの恋愛遍歴にじっくり耳を傾け、「funnyな気持ちになることに“好き”というラベリングをしているのではないか」という傾向を浮き彫りにしてくれた桃山商事の2人。それはかつての森田専務と同じ「飲酒型」の恋愛観とのことだった。刹那的な“内面的ひと目惚れ”を繰り返すわたしは、このまま一生まともな恋愛ができないのだろうか……? 桃山商事さん、わたしは一体どうすればいいですか――。
“オール or ナッシング思考”は危険
清田 ムギ子さんはライターとして様々な媒体で活躍しているし、自分の好きなプロレスというフィールドでもライター仕事を広げている。さらに、悪口を共有しあえる仲良しの女友だちもいる。だとすると、今ってわりと充足している可能性もあるよね。
ムギ子 そうですね。仕事先の人たちにも良くしていただいているし、家族ともすごく仲が良いので、人と関係を築くという意味では満たされているような気もします。だとすると、わたしは男性にドキドキだけを求めているのかも。そう考えると、そもそも彼氏は要らないってことになりますかね……。
森田 いや、何もそう極端に考えなくても(笑)。恋人って長く付き合うと、気の合う友だちみたいな感覚も出てくると思うんですよ。一方で、恋人は恋人であって友だちではないわけだから、「すごく仲の良い友だち」とはまた違った種類の親密な関係を築ける可能性があります。
ムギ子 そういう彼氏、切実にほしいです!
清田 ちなみに、切実さの内訳はどういう感じになるのかな。例えば我々のところに悩みを打ち明けに来てくれる女性の中には、妊娠のリミットや孤独への恐怖、見えない将来や周囲からの圧力など、様々な不安要素に苛まれていて、それが恋愛や結婚に対する切実さにつながっているケースが多いように感じていて。
ムギ子 なるほど……そうですね、結婚願望は正直そこまでないんですけど、彼氏はほしいんです。それは突きつめると、「自分が女として愛される存在だということを実感したい」という思いが大きいような気がします。裏を返せば、それさえ実感できれば究極、付き合わなくてもいいかもしれません。両想いとかでも十分という可能性もありますね。
森田 ムギ子さんの言う「女として愛されたい」というのは、具体的にどういう感じなんですか?
ムギ子 色気を感じてほしい。男性から性的な目で見られないというコンプレックスがあるので、そこを埋めてほしいのかもしれないです。
清田 例えば前編ではハプニングバーに潜入取材した際の話が出たけど、そこでは男性に声を掛けられたわけだよね。あれは「性的な目で見られた」という経験にはならない?
ムギ子 そうですね。「声を掛けてきたのはハプニングバーだからでしょ?」という思いが付きまとうというか……。なんだろう、わたしの中には「女として見られたい」と「女として見られるのが気持ち悪い」という思いが同居しているような気がします。
清田 確かにそれはそうか。やみくもに「女として見られたい」って思ってるわけじゃないだろうし、自分のことを何も知らない男性からいきなり性的な眼差しを向けられても気持ち悪いだけだよね。相手からの性的な眼差しって、その人とコミュニケーションを重ねる中で、「この人はわたしのこういう部分に魅力を感じてくれているんだな」ということが納得できて初めて受け入れられるものだと思う。ムギ子さんの言う「女としての自信」って、そういう実感を積み重ねることで養われていくものかもしれない。
森田 ムギ子さんは前編で「2時間くらい一緒にお酒を飲んで、『わかり合えた!』と感じた瞬間、すぐ好きになっちゃいます」と言っていたけど、そういう相手とその後にデートを重ねることはないんですか?
ムギ子 あるにはあるんですけど、途中で告白してフラれたり、アプローチしすぎて引かれたりで……あまり長く続くことはないんですよね。わたしのほうが途中で気持ちが冷めちゃったりとかはほとんどないです。
森田 なるほど。「ひと目惚れ→極端なアプローチ→うまくいかない」というパターンが繰り返されることで、「好きになった男性と関係性を築いていくことが苦手」という意識が生まれてしまっているのかもしれないですね。ムギ子さんのお悩みは、この“苦手意識”と、女としての“自信のなさ”という2つの要素が絡み合って複雑化しているんじゃないかな。
清田 アプローチがちょっと極端過ぎるのが気になるよね。
森田 うん。「当たって砕けろ」的な、バクチっぽい発想を感じる。これは『生き抜くための恋愛相談』にも書いたけど、この発想を我々は“オール or ナッシング思考”と呼んでいて、できれば避けたほうがいいと考えています。それよりも、「付き合う」の内訳を具体的に因数分解してみて、叶えられそうなものから少しずつ実現させていく“グラデーション思考”で進めていったほうがうまく行くように思うし、ムギ子さんの感覚にも本当はそっちの方がフィットするんじゃないかな。
清田 そっか、その“オール or ナッシング思考”の背景にあるのが「自信のなさ」かもしれないね。自信がないから極端な発想や行動に走ってしまう、というか。
ムギ子 完全にそうだと思います!
清田 ムギ子さんは話してて楽しいし、コミュニケーション能力だって高いし、もう少し自分に自信が持てるといいよね。
自分の好きなところを言語化する
森田 そうなんだよね。自信のなさって、2人の関係に悪循環を生みがちだと思うんです。ムギ子さんが自分自身の価値を不当に下げてしまうと、「ムギ子さんと一緒に過ごす時間」の価値も低くなるわけですよね。そのことは言葉や行動によって相手に伝わってしまうような気がします。それは相手にとって決しておもしろいことではないから、ムギ子さんに対する好意がうまく育たず、ますますムギ子さんの自信が失われていく……。逆に自分を好きになれば、そんなムギ子さんと一緒に過ごす相手にとっても楽しさが増し、自信が育まれていくという好循環が生まれる。我々はこれを“恋のエコサイクル”と呼んでいるんだけど、このサイクルが回っていくといいよね。
清田 自信のなさって、実際は思い込みで作られている部分も多分にあると思うのよ。「自信」って抽象的な言葉だよね。「自信がない」という自己認識の人って、自信が持てない部分だけをやたら具体的に言語化している一方、自信のある部分に関してはちゃんと言葉にしていないことが結構ある。それは謙虚さゆえかもしれないし、勘違いをしたくないという美意識ゆえかもしれないけど、自分の好きなところって、具体的に言語化していないだけで、案外たくさんあったりする。例えば、ムギ子さんは自分のどんなところが好きですか?
ムギ子 え! 好きなところなんて全然ないです!
清田 え〜、本当にひとつもないの? 自分の全部が嫌いってこと?
ムギ子 いや、そんなことは……。そうですね、根が優しいとか、真面目な性格とか……それくらいはありますかね。
森田 清田なんかは37歳にしてなぜか美白に目覚め、冬でも日焼け止めを塗るくらい「色白」にこだわってるけど(笑)、ムギ子さんも肌の色がとても白いですよね。例えばそういう部分に関してはどうですか?
ムギ子 色白なのは親に感謝ですが……白いとシミが目立つんですよ。
清田 すぐネガティブ要素が出てくる(笑)。
ムギ子 あ、でも人から「モチ肌だよね」と言われ、うれしかったことはあります。あとはホクロがあまりないところも気に入ってるかも。
森田 あるじゃないですか! 他にはどうですか?
ムギ子 あとは……犬に優しいところとか、母親に優しいところとかは、わりと気に入ってます。
森田 むっちゃいいじゃないですか! ほっこりしましたよ!
清田 ライターとしての自分に関してはどう?
ムギ子 フットワークが軽いところとか、すぐに自分をさらけ出せるところは、ライターとしてもプラスだなと感じています。プロレス好きな自分も嫌いじゃないかもです。それが仕事につながってきていることは自信になっているかも。あと……自分の書く記事は結構好きかも。記事がアップされた後も、何度も読み返して悦に入ってます(笑)。
清田 それってライターにとって超重要なところだと思う! いいじゃん! いろいろあるじゃん!
ムギ子 あとは、わりと料理が得意で、そこも気に入ってます。お金をかけずに作る「貧乏飯」をインスタにアップしてます。すぐ人を好きになれるのも、ある意味ではいいところかも。相手の魅力に気づけるという部分も好きですね。あとは、謙虚な性格もわりと気に入っています。自分に自信はないんですが、そのくせたまにビッグマウスなところがあって、そういう自分も好きですね。
清田 こうやって具体的に挙げていくと、好きなところって結構たくさんあることに気づきますよね。別に自己啓発セミナーをやりたいわけじゃないけど……こういう風に自己認識を改めてみるって、わりと大事なことだなって思う。だって、こうして眺めてみると、これだけたくさん好きなところを持っている人間が本当に「自分のことが嫌い」なのか、疑問に思えてくるじゃない?
ムギ子 そうですね……むしろわたし、自分大好き人間なのかもって思えてきました(笑)。
理想がフィクションに縛られている
森田 自信や自己肯定感も、“オール or ナッシング”ではなく“グラデーション”的に、できるだけ具体で考えていったほうがいいと思うんです。例えば自分の好きなところがたくさん発揮できるシーンや、好きな自分でいられる相手と過ごす時間を増やしていくことで、徐々に自己肯定感を高めることができるはず。そうすれば、自分にとっても相手にとっても、「一緒に過ごす時間の価値」が上がるわけで、恋愛も成就しやすくなるんじゃないかな。
清田 もしかしたらムギ子さんは、自分が嫌いなのではなくて、「理想とする自分」に現状の自分が追いついていなくて、その差額の分だけ自分を低く見積もってしまっているだけという可能性もあるよね。
ムギ子 お恥ずかしい……。
森田 「理想」というのがひとつポイントのような気もするね。自分自身のことも、男性に対してのことも。
清田 理想がフィクションに縛られているというのかな。「女として見られない」とかも、実体があるようで実はない。理想の自分と現状の自分にギャップがあったとしても、それをネガティブに捉えず、むしろ“伸びシロ”と考えることだってできる。本田圭佑的な(笑)。
森田 実体のない理想を追い求めるよりも、さっき挙げてくれた「自分の好きなところ」を発揮できる人たちと時間を過ごしていくほうが、楽しいんじゃないかな。
ムギ子 なるほど!
清田 そうだよね。だって、「ムギ子さんの記事面白いね」って思ってくれる人と、「興味ない」っていう人だったら、前者といたほうが絶対楽しいじゃん。
森田 「この人といるときの自分、イケてるな〜」って感覚は案外バカにならない。そういう感覚を軸にしてみるのも一つの手かもしれないね。
清田 よく考えたら、自己評価の低い人って、原理的に恋愛しやすいんですよね。なぜかと言うと、自分より相手を「上」に置くから、憧れやドキドキが発生しやすい。ただ、恋愛はできても、相手の「下」に潜っちゃうと、ナメられたり、いつまでも自信を持てなかったりで、結果的に悩み苦しんでしまう……。でもムギ子さんは大丈夫。自分大好きだから(笑)。だって、自分はまだまだイケるなって思ってるでしょ?
ムギ子 はい……思ってます(笑)。ライターとしては特に思ってますね。まだまだイケるはず。そう思ったら、なんだか恋愛もできるような気がしてきました!
この日を境に、わたしの中で、不思議と惚れっぽさが薄れた。「いいな」と思う男性が現われても、妙に冷静になり、“好き”とは結びつかなくなった。それはわたしが心底、人と深い関係を築いていきたいと思うようになったからだと思う。
これまで恋愛対象として見てこなかった男友だちに電話をかけ、「たまにはご飯でもどう?」と誘ったら、とても温かい気持ちになった。だからといって、その人が好き、という安直な思考も、もうない。少しずつ、少しずつ、いろんな人と深く関わっていきたいと思うようになった。
桃山商事の2人に恋愛相談をした感想――「全人類は、桃山商事に恋愛相談すべき!」。たった2時間で、こんなにわたしのことがわかるなんて、天才としか言いようがない。スラムダンク風に言うと、「それも、2人も同時にだ」――。この2人、ただ者じゃない。
◆桃山商事とは……
清田隆之(代表)と森田雄飛(専務)による恋バナ収集ユニット。2001年結成。恋愛の悩みに耳を傾ける「失恋ホスト」を始め、これまで1000人以上の男女から見聞きした話をコラムやラジオで紹介している。「日経ウーマンオンライン」で連載している恋愛相談が人気を博すほか、『anan』『Numero TOKYO』『FRaU』『毎日小学生新聞』『精神看護』など、幅広いメディアに寄稿。著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)、『生き抜くための恋愛相談』(イースト・プレス)がある。ニコニコ生放送で「桃山商事の恋愛よももやまばなし」を毎月放送中。
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