この度、阿佐ヶ谷姉妹の初書籍『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』が発売になりました!本サイトの連載エッセイはもちろん、書き下ろしのエッセイと小説も加わった盛りだくさんな内容。こちらのリバイバル掲載をお楽しみ頂きつつ、ぜひ書店でお探し頂けたら幸いです。
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鼻息荒かったみほさんの引越し熱も、内見によるLIFEゲージの減少と、今住んでいる所の良さを再認識して、かなり下火になってきておりました。
「私、気づいたの。今の、ここが好き」とみほさんがかなりガチな表情でつぶやいた時には、下町の糸井重里さんかと思いました。いや、糸井さんはこんなベタなキャッチコピーは作られないでしょうけれど。
とはいえ、狭い6畳内の陣地取り合戦、暑い日寒い日に一つしかない窓のどちら側を開けるか紛争(開ける側によって、どちらのいる陣地が風の影響を受けるか、とても重要なのです)など、細々とした小競り合いの中で、「もう一部屋あれば……」という願望は捨てきれません。
「そんなに今いる所が好きなら、そのアパートの隣りの部屋とか借りたら?」というお声もありました。
実は物件探し当初、その線も考えておりました。
私達のお隣りの部屋は、大学生のお兄さんがお住い。
私達が自宅でマグロの解体ショーのロケをした時に、うるさくしたお詫びも兼ねて、おすそ分けに伺った時も、にこやかに受け取ってくれた、好青年です。
とはいえ、玄関先でお会いした時に軽くご挨拶する程度。
ん?大学生?という事は、問題なければ、4年かそこいらで卒業したら、引っ越しの可能性大じゃないかしら?
記憶をたどってみたら、ちょうどお隣りが、引っ越しのご挨拶に来て下さったのが、4年前くらいだった気がしてきました。
もちろん就職しても、そのままこちらに住まれて阿佐ヶ谷から通う可能性も考えられます。とはいえ、聞いてみない手はないわよね、ないわよね!!
私達はこの発見と可能性に、興奮して小鼻をふくらませながら、ひそひそ話し合いを重ねました。
ご本人に直接伺うのはあまりになので、大家さんにお家賃を払いに行った時に、さりげなく伺ってみました。
すると、まさかの答えが。
大家さんによると、お隣りの大学生さん、なんと大学院に進学されていたとの事。
だ、だ、大学院!
築年数を重ねたアパートのあまり厚くない壁一枚のお隣りで、しようもない事でゲラゲラ笑っているおばさん達の声がご迷惑な時もあったでしょうに。
うーん、優秀!
でも……うーーーん、残念!!
このお話を聞き、お隣りのお部屋はしばらく無理そうね、となりました。
また、その他のお部屋も、私達と同様に居心地のよいアパートから離れたがらない、長期に借りている方ばかり。やはり動きはなさそうとの事で、気持ちを切り替え、物件探しを続けたのでした。
なかなか目を引くような物件に行き当たらないまま日々が過ぎ、みほさんの毎晩のネットサーフィンが、物件探しから、履きやすい靴探しに移り出した頃。
朝ゴミを捨てに行った私に、大家さんが声を掛けてくれました。
「お隣りの学生さんね、来月末でお引越しするんですって。」
えーーーーーーー!
「お部屋探してるってお話だったでしょ?お隣りが出られてから、お部屋見てもらって、気に入られたら、考えてもらっても。」
えーーーーーーー!えーーーーーーー!
大好きな今の場所に住める上に、二部屋の夢も叶う。しかもお隣りなら、お風呂トイレも増えるし、行き来も楽ちん。
ここにきて、奇跡キターーーー!
一重の瞼が、十二重になった位、視界がパカーンと開けた感じになりました。
それにしても学生さん、私達が時々コソコソと「お隣りが引っ越しくれたらいいのにねぇ」なんて言っていたのが、まさか聞こえてしまったのかしら。
心配になったのですが、大家さん情報によると、大学院のお近くに引っ越されるそうで、いわゆる「学業のご都合」。ホッとするおばさん二人でした。
学生さんお引越し後、いざお隣りのお部屋を内見させていただくと、数年前にかなりのリフォームが入った事もあり、私達が住んでいる部屋とは随分と違う感じになっていました。
和室形式ではなく、天井の高いロフト付きフローリングで、押入れはなく、お風呂、トイレ別。一口コンロ備え付けのミニキッチン。白を基調とした、ヤングに好まれそうなお部屋。
お知り合いの内装業者さんが気合を入れて作り変えられたそうで、「好みがあるから、気に入ったらで」と大家さんも気遣って下さったのですが、この千載一遇のチャンスを手放す理由もなく、お借りしたいとお願いしました。
大家さんと交渉した所、敷金礼金なしの高待遇。引越し費用もほぼかからず。ありがたい事この上なしです。
姉妹で話し合った結果、ロフトがどうしても嫌だというみほさんの意見を尊重し、私が隣の部屋に移る事にしました。
と、いう事で長らく続いた物件探しも、
ある意味理想的な形にたどり着きました。
これから、引越し作業するにあたってどのような事が起こるのか、ふたり暮らしが、お隣り同士とはいえ、ひとり暮らしになる事で、私達の何がどう変わっていくかは、まだ分かりませんが、これからも協力して仲良くして行ければと、思いを新たにしております。
こんな私達ですが、引っ越し後も温かく見守って頂ければ幸いです。(姉・江里子)
阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし
40代、独身、女芸人ふたりの地味おもしろい同居生活エッセイ。
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