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こういう旅はもう二度としないだろう

2017.12.18 公開 ポスト

郷に入っては郷に従え、の旅〜ためし読み その4

インド「薄紅色に染まる聖域 春のラダックツアー」銀色夏生

 

子育てが一段落したから、旅をしたい。そう思って、準備運動的にツアーに参加。苦手な集団行動だけど、「郷に入っては郷に従え」と唱えながらの旅行で、出会った人、見た景色、感じた風は……。待望の旅フォトエッセイ『こういう旅はもう二度としないだろう』から試し読みをお届けします!


 さて、私はもう自分の好きなツアーに行こう、と決心した。
 1ヶ月に1回は行きたいと考え、4月にいいところ……と、探していて目に留まったのがこれ。「インド北部・ヒマラヤの懐に抱かれた杏の里へ 薄紅色に染まる聖域 春のラダックツアー」。
 2016年4月23日から30日までの8日間、29万8000円。最少催行人員8名(15名様限定)。おひとり部屋使用料4万円。
 なにしろ、そのパンフレットの写真に心惹かれたのです。杏の花が満開で、その中に玉ねぎのような形のモスクが写っている。そのエキゾチックな雰囲気に。
 解説を読むと、
「知られざる杏の里・ラダックへ
 厳しい冬が終わり、柔らかな陽射しが日中差し込むようになる頃、インドの北部・ラダックやカルギル地域では杏の花が咲き誇ります。荒涼とした大地を色づける杏の花。白いポプラ、そして雪を頂いたヒマラヤとの組み合わせは、この時期だけの景色です。山からの雪解け水が流れ始める季節、ウールの民族衣装を着た人々がヤクを引き畑を耕したり、種をまいたりする様子が見られます。花の民と呼ばれる人々の住むダー村も訪問。さらにインダス川の西・イスラム文化圏のカルギルではモスクを囲い谷一面に広がる杏の花をお楽しみいただけます」
 決めた! 申し込もう!

 で、今は4月23日(土)。
 11時15分発の、デリー行きのエアインディアのエコノミーに乗ってます。
 快適かと問われれば、躊(ちゆ)躇(うちよ)なく「NO!」と答えられる状況です!
 というのも、真後ろの席に2歳ぐらいのインド人の男の子がいて、ずーっと泣いてるんです。ずーっと。それも耳をつんざくような大声で。こんなに長く泣けるものかと人体の神秘に思いを馳せるほど。
 30分ほど我慢したけど、たまらなくなってこんな時のためにと用意してきた耳栓をつけたら少しは楽になりました。耳栓、持ってきてよかった。私もだんだん旅慣れてきましたよ。他の席の赤ちゃんもつられたのか号泣しています。後ろの席の子が足で私の椅子の背をドンドン蹴り始めました。やめて~。
 泣き叫ぶ後ろの子。あやしたり叩いたりしている母。隣の隣の席のインド人は映画を見続けている。機械が壊れたようで、真ん中のだれもいない席の画面で続きを見ている。
 なんだか苦しい。

 搭乗してから1時間ぐらいして、やっと離陸。長かった。エアインディアは遅れがちというのはこういうことか。
 離陸して、ゴーッといい始めたら男の子も泣きやんだ。ほっとする。
 映画でも見ようと思ったけど、日本語字幕のいい映画がなかったので読書することにする。
 すると、ランチが運ばれてきた。チキンとポテトのカレーと、ほうれん草のカレー。とてもおいしいです。が、小さな緑色の唐辛子がすごく辛かった。

 近頃旅のことを考え続けていた私は、今回、飛行機の中で快適に過ごせるようなバッグを探し、ついにポケットが15個もあるバッグを買って、いろいろ入れてきました。けっこう高価なオロビアンコのバッグ。でも、ポケットが多すぎて、どこに何を入れたのかわからなくなり、また、ポケットが多いだけに大きく膨らんで使いづらい。そして革製で重い……。
 これは、インド旅行には失敗でした。
 まあ、それはしょうがないとして、着陸前に軽食。
 旅行中は食べ過ぎないのが健康法、と思いながらも、そのサンドイッチが案外おいしくてすんなり食べてしまう。果物も。

 9時間15分のフライト後、無事、夕方、デリーに到着した。
 そして入国審査。
 大きな丸がたくさんついた壁から巨大な仏像の手が何本も出ている。なんか好き。このデザインを考えた人は素晴らしい。
 バスに乗ってホテルへ。明日の早朝の飛行機に乗るので空港近くのホテルかと思ったらけっこう遠かった。1時間弱の移動。
 うす暗い変わった感じのホテル。でも大きくて近代的。ロビーのインテリアがさっきの空港の仏像の壁の丸にちょっとだけ似ていた。
 チェックインの手続きのためにしばらくうす暗いロビーで待つ。こういう時間は短くてもけっこう長く感じる。

昼食

アルチのホテル

ラマユル僧院の祭壇

川の水が美しい

買ったもの 杏や石鹼など

関連書籍

銀色夏生『こういう旅はもう二度としないだろう』

今、目の前のここが、今日の私たちの愛すべき世界で、見えているものが現実です。見えなくなったものをいつまでも追いかけるのはやめて、この世界でできることを今までと同じようにイキイキと体験したい。(文庫版あとがきより)

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