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防衛大流 最強のリーダー

2017.12.20 公開 ポスト

日本一過激で合理的な人材錬成法!

ウソをつくな、言い訳するな、仲間を売るな濱潟好古

「戦場だったら、死んでるぞ!」幹部自衛官を養成する日本最強の教育機関「防衛大学校」が教える、必ず結果を出すためのリーダーの哲学・所作を体系化した『防衛大流 最強のリーダー』。試し読み第1回をお送りします。入学後、はじめに叩きこまれる防衛大流「鉄の掟」とは?

防衛大の3大ルール

 防衛大は4学年から1学年までの完全縦割り社会で、軍隊に近しい徹底された規律の下、将来のリーダーを育てるべく徹底的に鍛えられる。総勢600名の1学年は4月1日が着校日となるが、初日に4学年に指導されている2学年の姿を見て驚いたことを、つい昨日の出来事のように思い出す。

 4月5日の入校日までは「お客さま期間」と言われ、実際の防衛大での生活を体験する。新1学年は「防衛大で生活していけるかどうか」をこの5日間で見極められるわけだ。

 つい最近までぬくぬく生活していた私にとって、防衛大での生活は本当にインパクトのあるものだった。

 結果的にこのお客さま期間で、30名前後の1学年が入校前に退校した。

 お客さま期間が終わり、晴れて防衛大の学生となった4月5日の夜に、上級生から言われた内容は15年以上たった今でも忘れない。

「集団生活を行うにあたってのルールを説明する。
 1つ、ウソをつくな、2つ、言い訳するな、3つ、仲間を売るな。
 以上を破ったときは厳しく指導する」

 この3つに共通していることは「保身に走るな」ということだ。

 幹部自衛官になると、国家防衛、災害派遣、人命救助と、自分のことよりも優先しなくてはならないことは山ほどある。将来、幹部自衛官になり、有事の際に「保身に走る」ような行動を取られては困るというわけだ。

 「保身」とは自分の地位、名誉、安全を守ること。ウソをついて自分の地位を守ったり、言い訳して名誉を守ったり、仲間を売って自分の安全を守るような行動は、厳しく指導される。

 基本的にこの指導に発展するのは、ルールを破ったとき、手を抜いているとき、こちらに落ち度があったときだ。

 防衛大での私の経験を例に挙げてみよう。

容儀点検で試された「仲間を売るな!」

 防衛大には「容儀点検」という服装の点検がある。

 防衛大生は起床後は「制服」に、課業が終わると「作業服」に着替える。

 1学年はこの制服と作業服の容儀点検がほぼ毎日ある。制服の点検項目は、プレス(アイロンがけ)、靴磨き、襟章磨きで、シワ一つでもあれば不合格となる。

 一番厄介な項目は「着こなし」だった。防衛大の「着こなし」とは、後ろからつまむことができないほど、作業服や制服の背中の部分をピンと張らせることを言う。

 普通に生活していて、靴を履いたり、しゃがんだりすれば、ズボンに入れていた服は出てしまう。それが駄目だ、という厳しいルールだ。おまけに、この着こなしは2人がかりでなければ完璧にはできない。

 容儀点検の際、1学年は横1列に並ばせられる。そして、点検官である上級生より厳しく点検される。不備事項があると、「靴の磨き不備!」「着こなし不備!」「プレス不備!」などと上級生から大声で判定を下され、対象学生は大声で「靴の磨き不備っ」と不備事項を復唱する。

 ただ不合格を言い渡されるだけならまだいいが、その際に必ず上級生から指導が入る。

「そんな着こなしで合格できると思ったか? 何で着こなしが崩れているんだ?」

 これに対し「時間がありませんでした」とか「しゃがんだとき崩れました」とか、言い訳をすると即アウトだ。「言い訳するな!」とさらに厳しく指導される。

 一番つらかったのは「誰に着こなししてもらったんだ?」という質問だった。

 ここで「〇〇学生(防衛大では公の場では名字の下に学生をつける)に着こなしをしてもらいました」などと言おうものなら「仲間を売った」「保身に走った」と烈火のごとく指導される。そして、目の前で「〇〇学生」も指導されるのだ。

 現在の防衛大ではないようだが、私が在籍していたころは多少体罰指導もあった。自分が仲間を売ったせいで、その「〇〇学生」が罰として目の前で腕立て伏せをさせられたこともあった。自分が体罰を受けるのであればまだ納得もできるが、自分のせいで仲間が体罰を受けている姿を見るのは本当につらかった。

 こうして防衛大生は「保身に走る」とどうなるかということを徹底的に叩き込まれる。

自己保身しないことで信頼を得る

 防衛大を卒業後、幹部候補生学校を経て、私は一般企業に入社した。6年目には管理職になり部下を持つ立場となった。

 管理職になったばかりのころ、入社1年目のIさんがお客さまから大クレームをもらった。上司の私が別件で客先打ち合わせ中だったので、他の先輩社員にどのように対応するか確認したそうだが、「クレーム? 僕が行かなければならないこと? 今、別件で忙しいから対応できない。とりあえず謝罪してうまくやっておいてくれ」と言われたという。

 打ち合わせが終わり、その部下からの着信に折り返し連絡したところ、その部下は「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」と私に謝ってきた。

 一刻の猶予も許されないし、そもそも1年目の部下だ。彼にクレーム対応はできないと思った。そこで、自分自身のタスクはいったん後回しにし、「今すぐ一緒に謝罪に行く」と一言だけ告げた。

 一緒にお客さまのところへ行き、クレームの理由、事の背景を伺い、心からの謝罪とトラブルの対処についてできる限りの話をした。途中、「御社の社員教育はどうなっているのですか?」と厳しいお言葉もいただいたが、それに対しても一切言い訳はしなかった。

 言い訳をするとどうなるかは、防衛大で痛いほど経験したことだ。

 そもそも言い訳をしたところで、トラブルは解決しない。

 その後、クレームは無事に落ち着いた。本来クレームから得るものではないが、とても良いことが2つ起こった。

 まず1つ目はその後、このお客さまとの関係がとても良くなったことだ。下手な言い訳をしたり、トラブルを他の誰かのせいにしたりしていたらこのような関係は構築できなかっただろう。後日先方と何回か飲みにも行ったが、あのときの私の行動に対して「とても潔かった」とすら言われた。

 そして2つ目は、クレームをもらったIさんが当時の私の行動に感化されたのか、自分にも後輩社員ができたときに同じ行いをその後輩にしたことだ。後輩社員はIさんのことをとても信頼していたし、尊敬もしていた。

 お客さまからのクレームは誰でも嫌だ。逃げ出したくなるときもあるだろう。

 だが、そういったときこそ「保身に走るな」を肝に銘じたい。部下のことなら猶更(なおさら)だ。自分のことはさておき、部下が困っていれば、それには全力で対応する必要がある。

 自己保身に走れば、その瞬間には自分自身は守れても、長期的に、かつトータルで見れば、信頼は必ず失われる。

 後に私が会社を辞めて独立するとき、当時大クレームを引き寄せたIさんに言われたリーダー冥利に尽きる一言が今でも忘れられない。

「自己保身に走らないリーダーに、私もなります」

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防衛大流 最強のリーダー

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濱潟好古

組織マネジメント・人材育成コンサルタント。株式会社ネクストミッション代表取締役。1982年生まれ。 防衛大学校卒業後、海上自衛隊幹部候補生学校を経てIT系ベンチャー企業に営業職として入社。入社2年目から5年目まで売上№1営業マン。6年目に営業部長に就任後は中堅、新人にかかわらず全ての営業担当に目標予算を達成させる。独立後は企業を対象に組織マネジメント、リーダー研修を行うほか、雑誌、ネットメディアで活躍。著書に『防衛大で学んだ無敵のチームマネジメント』(日本実業出版社)、『何があっても必ず結果を出す「防衛大」式最強の仕事』(あさ出版)がある。

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