私語厳禁、撮影禁止、一人一品の注文など、その種類は違ってもお客さんに守ってほしいことを、店内に掲示している店をたまに見かけます。店をやっている身としては「書きたい気持ちは、とてもよくわかる」と見るたびに思います(程度にもよりますが……)。しかしその気持ちを明文化してしまうと、それがルールになります。何事もルールになってしまうと随分と息苦しくなりますし、否定的にお互いを見てしまうことにも繋がりかねません。
それに対して、マナーは明文化されないところにその価値があります。本屋でのマナーは、細かくいえば幾つもあると思いますが、その肝は「本屋は、来店した人が落ち着いて本を買うための場所である」ということです。何を当たり前なと思われるかもしれませんが、そう考えれば、その場にふさわしくない行動が随分とわかりやすくなると思います。本屋は撮影スポットでもしゃべり場でもありませんし、売り物の本の上に自分の鞄を置いても良いとは思えません……。
しかし、もしマナーが守られないことが増えてきたとすれば、店をやっている人は自分のしている仕事を見直すべきかもしれません。店の人自らが守るべきマナーをしっかりと守り、その上で店をきれいにしていれば、店に来た人も普通は度を越したことはしないものです。はじめて来た人でも買い物がしやすいように、店を平準に保つのが店主の仕事です。そのためにはあまり色々なことに馴れ馴れしくならないのが良いと、個人的には思っています。
「お客様は神様だ」という言葉がありますが、店は客のものではありません。しかし同時に店は店主のものでもなく、そのあいだに位置して、ともにその場所を作っていくところだと思います。お互いが節度を持ちながら程よい緊張感が保たれているのが、よい店の条件だと思っています。
今回のおすすめ本
木下龍也 岡野大嗣『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』(ナナロク社)
短歌でこんなことが出来るとは思わなかった。ある七日間に起きた、二人の高校生の心情が、連続した短歌で綴られる。一つ一つの歌が独立しながら存在し、それでいて全体としては連なった波のようでもある。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
○2024年11月15日(金)~ 2024年12月2日(月)Title2階ギャラリー
三好愛個展「ひとでなし」
『ひとでなし』(星野智幸著、文藝春秋刊)刊行記念
東京新聞ほかで連載された星野智幸さんの小説『ひとでなし』が、このたび、文藝春秋より単行本として刊行されました。鮮やかなカバーを飾るのは、新聞連載全416回の挿絵を担当された、三好愛さんの作品です。星野さんたってのご希望により、本書には、中面にも三好さんの挿絵がふんだんに収録されています。今回の展示では、単行本の装画、連載挿絵を多数展示のほか、描きおろしの作品も展示販売。また、本展のために三好さんが作成されたオリジナルグッズ(アクリルキーホルダー、ポストカード)も販売いたします。
※会期中、星野さんと三好さんのトークイベントも開催されます。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【書評】
『決断 そごう・西武61年目のストライキ』寺岡泰博(講談社)ーー「百貨店人」としての誇り[評]辻山良雄
(東京新聞 2024.8.18 掲載)
◯【お知らせ】
我に返る /〈わたし〉になるための読書(3)
「MySCUE(マイスキュー)」
シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第3回が更新されました。今回は〈時間〉や〈世界〉、そして〈自然〉を捉える感覚を新たにさせてくれる3冊を紹介。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。
毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間
東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。