緊急事態宣言も解除され、通常の生活ーーというより「新しい」日常を始めることになった私たち。そんな中でデパートの再開は物理的にも精神的にも嬉しいニュースです。再開記念と題しまして、4月に文庫になって装い新たに発売されたデパートの外商が主人公の小説『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』の魅力をご紹介させていただきます。
* * *
ふらりと立ち寄る百貨店ですが、百貨店には百貨店ならではの秘密があるのはご存知でしょうか。『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』の作中でも、そんな”百貨店ならでは“のエピソードがたくさん紹介されます。一部引用してご紹介します。
外商は販売員であって販売員であらず
百貨店というと、欲しいものの「売り場」に買いにいくのが普通ですが、百貨店の上のほうに”外商フロア“なるものがあるのをご存知でしょうか。「外商」とは、字の通り「外で商いをする」人たちのこと。作中では以下のように紹介されています。
外商を辞書で調べると、「デパートなどで、店内の売り場ではなく、直接客のところへ出かけて行って販売すること」と説明されている。もちろんそれで正解なのだが、充分ではない。外商という部門はもともと呉服屋の御用聞き制度がルーツで、百貨店の店舗で行われいる販売とは一線を画す。店舗では、店員と客はその場だけの関係だが、外商と顧客の関係はそれこそ一生もので、「ゆりかご」から「墓」までお世話するのが外商の仕事なのだ。そういう意味では、「執事」または「秘書」ともいえる。さらに、顧客の話し相手をしたり日々の相談に乗ったりするのも、外商の仕事の内だ。そういう意味では、「コンパニオン」ともいえる。(本文より抜粋)
世の中には百貨店に買いに行かなくても、百貨店から家まで売りに来てくれる方々がいるということなのですね。わざわざお家で買うのだから、さぞかしすごいものを顧客の方々は買うのだろう、と想像しますが、これが意外。それこそペン一本からお墓まで、ありとあらゆるものが家にいたまま買えるのだそうです。
そして、物を「売り買い」するだけの関係でない、ということが何より面白く、その仕事の詳細は『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』でたっぷりお楽しみくださいませ。
「インゴ」がいっぱい
百貨店にいるとよく耳にうするのが店内のアナウンス。「〜からお越しの〜さま。お連れさまがお待ちです」や「〜からお越しの〜さま。お伝えしたいことがございますので〜フロアまでお越しください」など耳を凝らしていると、何種類かのアナウンスがあることに気づきます。そのアナウンスの中に実は“隠語”なるものが隠されているということはご存知でしたでしょうか。隠語には諸説ありますが、まことしやかに噂されている隠語としてはこんなものがあります。
赤井さん
万引き犯や、不審者のこと 。
「赤井様、3階〇〇にお越しください。」は、3階〇〇に万引き犯、もしくは不審者が現れたという意味。スタッフへ拡散するためにアナウンスでお知らせします。
桃井さん
万引きをしそう、不審な動きをしている人のこと。赤井さんの一歩手前ということです。
川中様
これも万引き客のこと。
「買わなかった」⇒「かわなか」さん。ということです。
『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』では、以下のような隠語が登場します。
「ちょっとサンバいってきます」
さて。「サンバ」とはなんのことでしょう。正解は「トイレ」です。なぜサンバがトイレ? かといいますと、隠語の番号からきているのでした。
一番:昼休憩
二番:中休憩
三番:トイレ
四番:万引き
作中の万両百貨店では一から四までがこのような隠語になっていて、三番が訛って「サンバ」になったということでした。
トイチの秘密
では、次の質問です。作中のやりとりの意味がみなさんわかるでしょうか。
「先日ね。とある外商さんが、仕事を紹介してほしいお得意がいるって相談してきたのよ」
「……お得意ですか?」
「いわゆる、トイチよ」
「え? トイチ? 闇金ですか」
さて、”トイチ”とは何の隠語かみなさんは想像つきますでしょうか。「10日で1割の金利」……ではありません。第二話「トイチ」第三話「インゴ」では、そんな隠語の魅力がたっぷり味わえるお話になっていますので、お楽しみください。