ネットに、テレビに、新聞に……日々溢れる医療・健康情報。それも、それぞれ科学的根拠や統計、資料などを駆使し、いかにも説得力のある気配をもたらしている。だが問題は、「それらがしばしば正反対の意見を主張することだ。そして私たちはついなるほどと納得し、きのうは東、きょうは西と流されてしまう――」。健康への過剰な不安から右往左往するこの暮らしぶりを、私たちはこのまま続けていくのか? 衝撃の話題作『健康という病』(五木寛之著)から、大反響の箇所を抜粋してお届けします。
いま日本列島に〈健康という病(やまい)〉が蔓延(まんえん)しつつある。
〈健康という病〉。それを私は〈健康病〉とよぶ。もちろんそういう病名はない。
しかし、このところこの国に広がっているのは、前代未聞のこの病気ではないだろうか。私の場合、目を覚ますとまず頭をよぎるのは、はたして昨夜、十分な睡眠がとれただろうか、という不安だ。
〈睡眠負債〉という言葉が頭にうかぶ。昨夜はトイレに3度起きている。OECDのデータでは、日本人の睡眠は29カ国で韓国に次いで2番目に少ないとかいうではないか。また私には睡眠中に呼吸がとまる傾向があるらしい。睡眠時無呼吸症候群とかいうやつだ。ほうっておくと日中、交通事故の原因となったり、高血圧、心筋梗塞(こうそく)、脳卒中になりやすいなど、いろいろ問題があるという。
私が信頼している医学者の一人に安保徹(あぼ とおる)さんというかたがいらっしゃる。『未来免疫学』『医療が病いをつくる』などの著書のある医師で、新潮選書の『こうすれば病気は治る─心とからだの免疫学』は、長く版を重ねている。
しかし、安保さんは、〈片寝は良くない〉と言われる。なるべく〈仰向(あおむ)けに寝る〉ことをすすめて、こう書いておられるのだ。
〈(前略)仰向け寝には、口呼吸になりにくいという利点もある。横向きで寝ると口で呼吸しがちになる。口呼吸は、扁桃腺を刺激して免疫系を乱すので危険だ。(後略)〉
たまたま見たのだが、先日のNHKの健康番組では、横向けに寝ることをしきりに推奨していた。しかも睡眠中に20回以上、寝返りを打つことが大事という話だった。
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健康という病
健康を過度に気遣うことは深刻な病気である――。連日メディアに溢れる健康情報。過剰な不安から、情報に右往左往し続けるこの暮らしぶりを、私たちはこれからも続けていくのか? 「座標軸は身体の声」「健康法には正反対の意見がつねにあると心得る」等、健康ストレス=心の老廃物をみるみる流す処方箋。