本日2月3日に公開されたカンパニー松尾監督の「劇場版アイドルキャノンボール2017」。
一見、アイドル映画のように思うかもしれないが、見どころはむしろアイドル以外。男社会での承認欲求、粋と遊びの世代間格差、結婚の意味など、見たものの胸をざわつかせるのは、生々しい現代的問題ばかり。
前回、同じく松尾監督の「劇場版テレクラキャノンボール2013」で怒りを爆発させた湯山玲子さんが、またも突きつける作品への疑問、不満、感嘆。「アイキャノ」をめぐるむきだしの対談。
(構成:アケミン 撮影:塚本弦汰)
頑張りすぎる映像作家二人が粋と遊びをぶち壊す
湯山玲子(以下、湯山) 前回、「劇場版テレクラキャノンボール2013」(「テレキャノ」)対談ではバトル勃発でしたが、またお呼びいただきありがとうございます。
カンパニー松尾(以下、松尾) 「テレキャノ」公開時にはボク自身もモラル的なことを心配していたのに、当初あまり否定的な意見が挙がっていなかった。でも対談の際に湯山さんがビシッと物申してくれたのがよかったです。
湯山 前作ではキャノンボール方式ともいう戦い方のゲーム性が明確だったから、それぞれの参加者を戦いぶりをシンプルに追跡するだけで、ナマのままでオイシイいろんなドラマが飛び込んできた。
でも今回の「劇場版アイドルキャノンボール2017」(アイキャノ)は前作同様ドキュメントの手法を採用しているものの、相手はアイドルで難攻不落だし、作品初頭で語られるように作品が成立している舞台背景が単純ではない。結果、そこで起こった出来事を松尾さんが再構築して編集している、つまり料理されているので、作り手の意見が明確に見えている。
松尾 編集においてどう演出していくか、という部分は大きいですね。
湯山 それは最初のシーンから明確だよね。マラソンを走り終わった段階で今回の参戦監督たちを一人ずつ紹介しているところで、いきなり岩淵(編集部註:ドキュメンタリー映画監督の岩淵弘樹。今回、初めてのキャノンボール参戦)がゲロ吐いて登場する。その出方がね、私すっごい癇(しゃく)に障ったわけですよ!
松尾 ハハハハ(笑)。
湯山 そもそも前作「テレキャノ」は、男の集団の話でしたよね。「こんな時代に、こんな大人なオレたちが、こんなバカなゲームに一生懸命になっちゃってる」「男の戦闘欲ってゲームでしかないよな」という自嘲がらみの熱気がある意味、クールに感じられた。そこには、男が男に惚れる「粋さ」があって、それは、前回もそうだけど、今回は特に松尾さんと山下さん(編集部註:AV監督のバクシーシ山下。キャノンボールの常連)が率先して醸し出しているんです。しかもその男の集団って「男子の部室」みたいなもので、そこには女の子は入ることができない。でも女の子は入れないからこそ、なおさらそれに憧れるという構造がある。
ちなみに、この構造については、マジで女性は気をつけないと、紅一点という名誉男子として結果、あんまりいい目に合わないんですよ。でも今回は、その「男子の部室感」が成り立ってない。新しいメンバーが何人か参戦していて、岩淵さんもそのひとりなのですが、彼らはもちろんテレキャノの仲間になりたい。その「粋さ」に憧れを抱いていても、「自虐がらみの熱気」という男らしさの方向がわからない、「男らしさの継承」を間違って受け継いじゃっている人に今回は焦点が当たっている。「この世界が全員、岩淵だったらイヤだなぁ」と思って私は見ていましたね(笑)。
松尾 あの岩淵の登場の仕方は、まったく演出なしの予期せぬ出来事。あれには、僕らもビックリでしたね。でも実はそれ、バクシーシ山下の策なんですよ。というのも前の日にライバルでもある仲間をベロンベロンに酔わせて潰しておけば、翌日のマラソンは走れなくなるという計算なんです。まぁ岩淵も半分、わかっていて乗っちゃったんですけどね(笑)。
湯山 あとはもうひとりは、宮地ですよ(編集部註:同じく初参加のエリザベス宮地。映像作家)。最後なんで泣くのよ? それも意味不明の号泣。もうね、あのふたりは男の集団の中でのブラックシープ(厄介者)ですよ。
松尾 あはは(笑)。ゲームをしゃかりきにやって、自分の内側に入り込み過ぎて、結局最後は自分に対して涙している。今回の映画は、両脇が二人とも「中学生」なんです。
湯山 「テレキャノ」で描かれている遊びの象徴としてのバイクに乗った男たちが疾走する抜けの良さとか、野生動物の狩りにも似たナンパだとか、男の文化のカッコいいところが今回の「アイキャノ」にも受け継がれているのかと思ったら、これがまったく伝わってない。もうね、見ていて頭抱えちゃいましたよ。
宮地さんも岩淵さん両名から感じられるのは過剰適応。ちょっと前まで、若者という存在は、上の世代のやってきたことに対しては全て反抗。ネット世代はそれ以前の世代をオヤジと蔑み、バブルのくせにと常に上の世代に対してカウンターを食らわせようとした。でもあの二人は「憧れているから、オレもそうなろう」とやすやすと尻尾を振って、過剰に適応していく。最後に岩淵さんが、あえて自分から想定外の過激な行動に出るシーンには、それが端的に表れていますよね。
松尾 そもそも「テレクラキャノンボール」って男同士がバイクに乗って地方に行って、どの女とヤったかを競うゲスな話なんですよ。でもただそれだけだと、AVならまだしも劇場版にしたときには、見た人になにも残らない。だから最終的に僕が編集の段階で「ヤルかヤラないかの人生なら、ヤル人生を選ぶ。」という形にして、昇華させているんです。もちろん僕も意図的に編集しているので、それはまったくの嘘ではないんですけど、「テレキャノ」がヒットしたことでこのキャッチフレーズがひとり歩きした。
湯山 教祖のご託宣のようになっている。
まっすぐに伝わってしまった「テレキャノ」のメッセージ
松尾 実はボクらは、ちゃらんぽらんに、いい意味でいい加減さを残して楽しく生きたいんです。でも今回の映画では、宮地や岩淵のようにテレキャノのキャッチコピーをあまりにもまっすぐに受け取った人がいることが明らかになりました。
湯山 残酷だけど会社組織でも、ほどほどにちゃらんぽらんにやっているほうがしぶとく出世する。逆に一生懸命やってもトンチンカンな方向に進んでしまう若手が多いと同世代の管理職が嘆いていますね。「これだけやりました! 見てください!」と懸命にアピールするんだけど、その方向性が違う。
松尾 まさにそうですね(笑)。逆に嵐山みちるは、途中、AVを撮影をするためにレースを中抜けしているのに、しっかり結果だけ残してる。
湯山 「今どきの若い子は、軍隊的に枠にはめられるのは嫌がっている」とも言われているけど、この映画では自分からより不自由なところに身をおいて、褒めてもらおうとまるで忠犬みたいな生き方をしている例が出ちゃっていて、すごくおもしろい。
松尾 ちなみに今回の「アイキャノ」では、撮影対象が多くて、チーム戦という形を取ったので、わりと仕事感が出ちゃってる。
湯山 出てましたね。岩淵さんからも「仕事ですから」ってセリフも飛び出した。
松尾 もちろんみんな仕事として合宿所に撮影に行ってるけど、ああやっていい切られると、それもまた腹が立ちますよね(笑)。
湯山 その嫌な感じは、伝わってきます。
松尾 自分の成果を強く主張してくるタイプっていますよね。これは岩淵とは違う話ですが、自分の小さな成功を大きく見せたがる人もいる。たとえいい結果を出せたとしても、一歩引いて「いやいや、これは○○さんのおかげです」って言えるのが美意識だと思うんです。
湯山 それを「仕事ですから」って、ドヤ顔で言われちゃうとねえ…。彼の本心じゃなくても、あの映画の中では少なくてもそう映ってしまう。
松尾 「アイドルキャノンボール」といっても実際は、アイドルがほとんど登場しない。男同士の会議シーンの連続なんで、バイクで疾走する「テレキャノ」に比べるとどうしても映像的には閉塞感がある。でも男が何人か集まって仕事をしたり、世代の違う男たちがチームを組んで仕事をすると必然的に起こることが映像にたくさん現れてきた。
湯山 本当に。想像していたのと、見終わったときの印象はまったく違ってましたからね。社会性が高いですよね。アイドルファンだけでなくビジネスマンにもぜひ見てほしい映画だと思います。
(第2回に続きます。公開は明日2月4日の予定です)
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『劇場版 アイドルキャノンボール2017』
公式HP:http://idol-cannon.jp
出演:BiS BiSH GANG PARADE WACKオーディション参加者
渡辺淳之介 高根順次 平澤大輔 今田哲史
カンパニー松尾 バクシーシ山下 アキヒト 梁井一
嵐山みちる 岩淵弘樹 エリザベス宮地 他
プロデューサー:渡辺淳之介(WACK) 高根順次(SPACE SHOWER TV)
監督:カンパニー松尾
製作:WACK INC. SPACE SHOWER NETWORKS INC.
配給:日活