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劇場版アイドルキャノンボール2017

2018.02.04 公開 ポスト

第2回

AV監督に自ら育てたアイドルを差し出すプロデューサーの心理とはカンパニー松尾/湯山玲子

2月3日に公開されたカンパニー松尾監督の「劇場版アイドルキャノンボール2017」。一見、アイドル映画のように思うかもしれないが、見どころはむしろアイドル以外。男社会での承認欲求、粋と遊びの世代間格差、結婚の意味など、見たものの胸をざわつかせるのは、生々しい現代的問題ばかり。
前回、同じく松尾監督の「劇場版テレクラキャノンボール2013」で怒りを爆発させた湯山玲子さんが、またも突きつける作品への疑問、不満、感嘆。「アイキャノ」をめぐるむきだしの対談。
(構成:アケミン 撮影:塚本弦汰)

取引先の女性に恋をしたら映像作家はどう振る舞うべきか

『劇場版アイドルキャノンボール2017』 2017年3月下旬、株式会社WACKに所属するBiS,BiSH,GANG PARADEの新メンバー募集を目的に、WACK合同オーディション最終審査が5泊6日にわたって行われた裏で、密かに撮影を慣行。アイドルグループのメンバーはもちろん、オーディション参加者、街角やSNSでゲットした素人女性を対象に、AV監督&MV監督陣がどこまで迫れるか競ったが……。

湯山 前作の「劇場版テレクラキャノンボール2013」(「テレキャノ」)から本作「劇場版アイドルキャノンボール2017」が公開されるまでたった4年しか経っていないですが、この間に世間ではInstagramが出てきた。これは劇的な変化です。「いいね!」をもらうために必死にアピールする承認欲が、岩淵さん(*ドキュメンタリー監督の岩淵弘樹)からどうしても感じられてしまうところが、非常に「今っぽい」と思いましたね。

松尾 岩淵の頑張りには僕らは驚いたし、素直に感動しましたよ。あれだけのパワーは、なかなかない。彼自身は、体育会系出身なので先輩たちに対して「何か爪痕を残してやろう」という単なる意地で動いていたのかもしれないけれど、結果としてそれが承認欲に見えたのでしょう。

湯山 岩淵さんの頑張りって、自分がどれだけ足を動かし、汗を流したかの「エネルギーの総量」だよね。残業することが会社への貢献だと信じている頑張りに近い。これ重要なことで、会社の人事評価の大きな部分に「会社のためにどれだけ頑張ったか」という判断がありそれは、往々にして時間で判断される。ご存じ、子育て中の女性が出世できず、ブラック企業が生まれる土壌ですよ。この滅私奉公や忠誠心の考えが、自然なかたちで岩淵さんに在る。「根性を見せれば男が上がる」という考えは、若い人にはないと言われているけど、逆により純粋な形で残っている気がする。

松尾 僕や(バクシーシ)山下さんは、本来もう少し個人主義なんだけどね。

湯山 もちろんですよ。そういう「ニッポンのオトナ」の社会にアンチする自立したクール集団というカラー、先ほどから言っている一種の「粋」がカッコよかったわけだけど、岩淵さんたち「新入社員」たちにはその本質は見えていない。

同じようにビジネスでたとえると、(エリザベス)宮地くんがアイドルの女の子に一方的に恋をして、暴走してしまうあたりは、世間で問題になっているパワハラやセクハラに通じるものがありますね。

松尾 仕事で接しないといけない取引先の女性に一方的に恋心を抱いてしまったみたいなものですからね。

岩淵弘樹さん、エリザベス宮地さんに気持ちを揺さぶられる湯山玲子さん

湯山 もちろん、彼は好きになったアイドルのコを損なう行為はしていない。仕事相手に恋しちゃうことは、人間だから仕方ないんだけど、このどう考えても成就しないこの恋に対して、「オレが相手に認められない苦しさ」を「割に合わない」と暴力のスイッチを入れられたらヤバい、ですよね。ガチで恋して断られたら復讐する……なんてパターンです。

松尾 復讐はしていないですが、結局「アイキャノ」を終えたあとに宮地はBiSHのドキュメンタリー映画(『ALL YOU NEED is PUNK and LOVE』)を撮った、すごい男です。そもそも被写体を好きになってしまうことは、往々にしてありますよ。でもこちらも映像を残さなきゃいけないから、好きだという気持ちをカメラに託して被写体を撮るわけです。

湯山 そこがプロとして、越えなくてはならない哀しさですよね。

松尾 恋心を抱いてしまったからこそ、自分の気持ちを含めて、ちゃんとぶつかるべきだった。

湯山 私たちとしても、すでに老獪なテレキャノオリジナルメンバーの予定調和を崩すガチで純粋な恋心を抱いてしまった人が、引き裂かれ、葛藤しながらレースを突破しちゃうところを見たかった。

松尾 そうなんです。そういう意味では宮地はいい線まで行ったんです。合宿を途中で抜けて、BiSHを追いかけて地方ライブに密着しましたから。

湯山 そうそう、そして最後の会議で見せるあの号泣には驚きましたよ(笑)。赤ちゃんか幼児の態度だよね。

松尾 あれは自分に対しての涙だから美しくないんですよ(笑)。

アイドル合宿で見せつけられるSM調教プレイ

湯山 そして途中、松尾さんがキャノンボールに飽きてしまうんですよね。「オレらはゲームとしてやってるのに、ガチで燃えられてもなんか……」という違和感だったのかしら。

湯山さんのツッコミにもいっさいひることなく答えるカンパニー松尾さん

松尾 ここでは宮地や岩淵だけじゃなくて、アイドルも頑張ってるんです。そもそも今回、アイドル合宿オーディションを主催したWACKの社長・渡辺(淳之介)くんは、ものすごい負荷をアイドルたちにかける人なんです。アイドルにマラソンさせたり、激辛ソースを食べさせたり、過酷な状況へ追い込んでいく。まるでSMの調教プレイですよね。そしてファンは、それを見て一緒に応援するんです。ただ客観的にハタから見ると「なにやってんの?」って感じなんですけど中にいる当人たちには、その感覚がわからない。M女が鞭打たれている様子は、第三者から見ると残酷に見えても、当の本人たちは気持ちいいから鞭打たれてる。でも見ているほうは、彼女たちがガチになればなるほど疲弊してくるんです。

湯山 そうか、既視感があったのはSMってことだったのか!!  渡辺ご主人様に選ばれるため過酷な調教に耐えるアイドルたち。いやー、渡辺って男もなかなか狂っているよね(笑)。だってこのレースってひとことで言ったら「オーディションから脱落したらAV撮影していいいよ」と社長みずからがいけしゃあしゃあと女の子を差し出すわけでしょう。「お前、何様⁉」って思いましたが、SMということなら合点がいく。そう、あのアイドルたちは、逃げていく先々で悪漢(あっかん)たちの餌食になる、サド描くところの「ジュスティーヌ」だったわけだよ。あっ、悪漢って、テレキャノ集団ね(笑)。

松尾 AV監督に差し出すのは、「落ちたからどうぞ」というよりも「本人さえ良ければどうぞ」という感じですかね。それにしても渡辺くん、女性には評判悪いんですよね(笑)。

湯山 そんな男にくっついていく女の子たちにも腹が立つけど、SM関係と思えば、ね。でも今回は、オーディション脱落者にセンスのいい子が多かったですね。この理不尽な設定に溺れてない。社会的に言うととんでもないマッチョ組織でわりと働けちゃったりしている女たちにも当てはまる。気持ち悪い男社会にのシステムに入って、そのルールにのっとったプレイをしているだけで、本人は至って正気、という。女性たちは、巧妙にブレーキを効かせながら、男社会の事情に適応して働いていたりするんですが、今回の映画はそのパロディにも思えたよね。過酷な合宿でアイドルたちが追い込まれてワーッって泣いて、その様子を社長がニヤニヤして眺めている。でも女の子たちにとっては泣くのもあくまでプレイの一つなので、終わったらケロッとして冷静に帰って行く。これが社会で働く女の武装の仕方なんだと思いましたね。

松尾 渡辺くん自身は、インディーズから始めていてメジャーなアイドルに対して常に戦いを挑む面白い人なんですよ。当時まったく無名だったBiSに全裸でPVに出演させて、それがYouTubeで再生100万回を達成したり、なにかと常識を壊すことから始まっているんです。

湯山 それはすごい。

松尾 面白いのは、彼が手がけているアイドルって可愛い子がひとりもいないんですよ。選りすぐりの美少女ではなくて、引きこもりみたいな子まで寄せ集めて個性を伸ばしている。今回とはまた別の企画ですが、100キロマラソンを走らせたりとか、なにかとアイドルを過酷な目に遭わせて無理強いをする。いや、まさにSMですよね。そしてそれを支持しているファン、つまりSMクラブの会員がいるんです。そんな渡辺くんの精神構造や方法論って、同じ男から見て面白い存在なんですよ。

湯山 ちょっと視点は変わりますが、そんな渡辺さんも松尾さんや山下さんが持ってる「テレキャノ」の粋な男の世界に憧れを抱いていた人だと思うんですよね。そして自分もその世界に入りたいと思っている。だから、今回、ご自身も楽しそうに出演している。

松尾 たしかに渡辺くんも「テレキャノ」を見たことがきっかけで、自分たちのアイドルを使って、キャノンボールをやってほしいと声をかけてくれた。そこでできたのがBiSの解散ライブの裏で行われた「BiSキャノンボール」です。渡辺君は、「自分たちが手がけるアイドルは、AV撮影なんかしない」と信じているので「直接本人たちを口説いて、OKだったらAV撮影してください」という二律背反を提示している。それは決して建前じゃない、彼は本気なんですよ。いわばSMの長が自慢のM女を差し出す感覚ですね。「やれるものならやってみろ」というのがこの戦いなんです。

湯山 だから彼は終始ニッコニコしているんですね。自慢のM女を差し出して、憧れている男の世界に入れるわけですから。
(第3回へ続く)


*お二人の前回の対談『「劇場版テレクラキャノンボール2013」が教えてくれる男と女とその時代』は電子書籍で発売中です。

***
『劇場版 アイドルキャノンボール2017』
公式HP : http://idol-cannon.jp 

出演:BiS BiSH GANG PARADE WACKオーディション参加者
 渡辺淳之介 高根順次 平澤大輔 今田哲史
 カンパニー松尾 バクシーシ山下 アキヒト 梁井一
 嵐山みちる 岩淵弘樹 エリザベス宮地 他
プロデューサー:渡辺淳之介(WACK) 高根順次(SPACE SHOWER TV)
監督:カンパニー松尾
製作:WACK INC. SPACE SHOWER NETWORKS INC.
配給:日活

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カンパニー松尾

AV監督。1965年愛知県生まれ。1987年、童貞でAVメーカーV&Rプランニングに入社。翌88年、監督デビュー。特技はハメ撮り。趣味はカレーとバイク。1996年、V&Rを退社しフリーとなり、2003年、自身のメーカーHMJM(ハマジム)を立ち上げる。代表作として『私を女優にして下さい』、『テレクラキャノンボール』など。2014年劇場映画公開「劇場版テレクラキャノンボール2013」が大ヒット。その後『劇場版BiSキャノンボール2014』も話題に。ミュージシャン・豊田道倫のPVやライブ撮影を手掛けている。

湯山玲子

著述家、プロデューサー。日本大学芸術学部文芸学科非常勤講師。自らが寿司を握るユニット「美人寿司」、クラシックを爆音で聴く「爆音クラシック(通称・爆クラ)」を主宰するなど多彩に活動。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッションなど、カルチャー界全般を牽引する。著書に『クラブカルチャー』(毎日新聞社)、『四十路越え!』(角川文庫)、『女装する女』(新潮新書)、『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『ベルばら手帖』(マガジンハウス)、『快楽上等!』(上野千鶴子さんとの共著。幻冬舎)、『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』(KADOKAWA)などがある。

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