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劇場版アイドルキャノンボール2017

2018.02.05 公開 ポスト

第3回

遊びが男からなくなると色気もなくなるカンパニー松尾/湯山玲子

2月3日に公開されたカンパニー松尾監督の「劇場版アイドルキャノンボール2017」。一見、アイドル映画のように思うかもしれないが、見どころはむしろアイドル以外。男社会での承認欲求、粋と遊びの世代間格差、結婚の意味など、見たものの胸をざわつかせるのは、生々しい現代的問題ばかり。
前回、同じく松尾監督の「劇場版テレクラキャノンボール2013」で怒りを爆発させた湯山玲子さんが、またも突きつける作品への疑問、不満、感嘆。「アイキャノ」をめぐるむきだしの対談。
(構成:アケミン 撮影:塚本弦汰)

あの手この手でアイドルを脱がそうとするやり方に学べることは多い

『劇場版アイドルキャノンボール2017』 2017年3月下旬、株式会社WACKに所属するBiS,BiSH,GANG PARADEの新メンバー募集を目的に、WACK合同オーディション最終審査が5泊6日にわたって行われた裏で、密かに撮影を慣行。アイドルグループのメンバーはもちろん、オーディション参加者、街角やSNSでゲットした素人女性を対象に、AV監督&MV監督陣がどこまで迫れるか競ったが……。

湯山 「自分のアイドルはAVになんて出ない」と信じて、アイドルを差し出したプロデューサーの渡辺さんだけど、次々とポイントを重ねていく(バクシーシ)山下さんの戦術を目の当たりにして「次はないわ〜」と唸っちゃうんですよ。なんですか!? あの山下さん。最年長のオヤジなのに。

松尾 山ちゃんは、人間力がある。口が立つし、相手の反応を見ながら話を進めることができる人ですね。彼は渡辺くんのやり方を見て女の子の弱点を把握して、あの手この手でアイドルを脱がしていこうとする。

湯山 天性かと思えば、けっこう戦略家なんですよね。仕事ができるタイプ。男として最強でしょうね。女の子と二人きりのシーンで見せるヌメヌメとした距離感もいい。岩淵は「お願いしまっす!」と真正面から突っ込んでいくけど、山下さんの押したり引いたり、相手をソノ気にさせるやり方は非常に勉強になる。勉強してどうするって話ですが(笑)。でも当の本人の心は冷えてるし、その冷えている感じに女はいっそう惹かれていくんです。

松尾 すべてにおいて山下さんの戦略が効いていますね。実は「テレクラキャノンボール2013」と今回の作品の間にあった「BiSキャノンボール」では、彼は成果を残せなかった。「アイキャノ」は彼にとってリベンジなんですよ。マラソンなんて年齢的に考えてもキツイのに一ヶ月前から一人で練習して、ウェアまでバッチリ揃っている(笑)。

湯山 いわば酔狂ですよね、「遊びでも、どうせだったらとことんまでやってしまえ」と。

松尾 宮地や岩淵と違うのは、山ちゃんは最初から「このキャノンボールを面白くしよう」と思ってやってくれているんですよ。

湯山 出産という大仕事がある女性は、まあ、本来、真面目ですよ。社会的にも「遊ぶ女」には風当たりが強いから、せいぜい、女子会やファッション三昧(ざんまい)ぐらいのところで留まっている。けれども、男の場合は「遊び」を手中にしている。フラフラ遊んでカッコいい人っていっぱいいるじゃないですか。AV監督もそう、女とヤってお金も貰えてウハウハな職業で、と男たちから羨ましがられる。テレキャノに登場するバイクなんかも遊びの象徴だよね。でも宮地、岩淵の両名を見ていると、遊びって男からなくなってしまうのかと危惧しました。

松尾 たしかに今回のメンバーでも遊べているのは、山ちゃん(バクシーシ山下さん)ぐらいですよね。

湯山 梁井さんもシレッとした雰囲気でシャレが効いた魅力がある。でも一方で同じAV監督の嵐山みちるは、「テレキャノ」と比べると顔つきが変わっていましたね。

松尾 そうなんですよ。あまりの激務で人相が変わった。だって彼、月8本ペースでAV撮ってますから。余裕というか遊びが抜けてしまっているから、色気がなくなってしまっている。

湯山 女は、遊びと色気がある悪い男に惹かれるし、男だって遊んでいる女、いわば悪女に惹かれる構造がありますよね。

松尾 そうなんですよね。そしてこの遊びに参加するにあたって、岩淵は奥さんにクソ真面目に断りをいれてきた。

湯山 そう、そこも重要。妻が傷つくことをあえてやるという罪悪感を自分ひとりで抱え込めない、ということでしょ。そもそも「遊びの場」で奥さんを持ち込むのは無粋という感覚は彼には無い。

松尾 そこがあいつの一本気なところで、いちいち言わなくてもいいことを言っている。しかもちゃんと話し合って、奥さんも「頑張ってね」なんて送り出している。

湯山 この「何でも言葉に出して話合う」夫婦像は、ハリウッド映画等でお馴染みですが。

松尾 その正直さは、新鮮でした。ボク自身も結婚してますけど、岩淵の言う「ヤリたいことをやるために結婚する」なんて、実生活ではとうに忘れた話なんですよね。

湯山 彼の中での筋は通っているんですよ。

松尾 ボクはそういう面では、少しひねくれたところがあったけど、たしかにやりたいことをやるために、それぞれが一緒になっているという原点を再確認した。それは結婚だけでなく、仕事や会社にも当てはまるんです。ただ現実は、売上げやコンプライアンスだったりいろんな要因で、やりたいことがストレートにできないことも多い。そんな中、お互いがやりたいことをやって、一緒にいるために許し合える関係って理想的だよなとも思うんです。

湯山 欧米の夫婦に近い形ですよね。嘘は絶対にダメ、クリントン元大統領のように浮気しても真実は認め、謝って許してもらう夫婦関係です。言葉でのコミュケーションで納得や了解し、そこをよすがに深入りもしない、というある意味フェアでラクな関係です。そしてこんな風に言挙(ことあ)げしていく夫婦関係は、彼らの世代からの特徴でもありますね。その最初の世代の不器用さをこの映画は、ドキュメンタリーとしてもよく映し出している。

松尾 面白いのは、この言葉って人によって見方が違うこと。プロデューサーの高根さんは面食らっていたし、山下に限っては「結婚制度そのものに懐疑的だから」とか言い出している。そんな山下の切り返しって、粋だしシャレがある。

湯山 まあ、山下さんみたいなタイプは、甘えられるお母さんみたいな日本伝統の妻を必要としないタイプでしょうからね。重ねて言うけれど、山下さんの複雑系の魅力は、男子みんなが好きだろうね。矛盾を抱え込む心のパワーが強いタイプね。ナレーションで「最近は(山下は)家にいることが多いです」と何度も重ねているけど、もう、宮本武蔵みたいだもん。

松尾 山下なんか矛盾だらけですよ。人には良いこと言うくせに自分のことになるとさっぱりだし、すぐに連絡が取れなくなる。

湯山 わはははは(笑)。

松尾 山下はね、分かりやすく失踪するんですよ。メガネも財布も携帯も置いて、連絡が取れなくなるんです。で、戻ってきて聞いたら「UFOにさらわれてました」「日本海が見たくなって」とか言うんですよ。

湯山 さすが!

アイドル好き、AV好きの男はイメージの女が好きなだけ

松尾 あと連絡が取れなくなるといったら、「アイキャノ」の撮影中に宮地がBiSHを地方ライブまで追いかけて、途中、音信不通になったんです。LINEも既読スルーなんですよ。おれたちは合宿所で毎日同じメシ食ってたし、宮地は地方でうまいもの食べてたら腹立つなと思って、わざとメシの写真を撮って「俺らと同じもん食え!」って送ったんですよ。そしたら既読になるけど、いっこうに返事がない。そこはなにか返してほしいじゃないですか。でもね、彼の中では既読がついてればもうそれでいいんです。わかりますかね、この洒落がない感じ。

湯山 ほんとだねぇ。怒られたら、スルーしてなるべく自分が傷つかない態度でやりすごす、というわけか。常々思うんですが、若い子って人が抱く感情の恐ろしさがあまりわかっていないかも。音信普通に関しての挽回は、きちんと松尾さんがどうすれば喜ぶ人なのかを忖度してやらなければダメなのに、その危機感が全く無いよね。本当に若い世代の感情が劣化しているんだと思います。

松尾 別にLINEの返事がなくても、宮地がすごいものを撮って帰ってきたらオレたちの負けですよ。でも結果っていうのは、そういう「返し」にも出てしまうのかもしれない。しかも宮地は、アイナちゃんのことが好きになったと言っているけど、それはあくまでもBiSHの「アイナ・ジ・エンド」が好きなんです。あるとき宮地が「なんで、アイナちゃんの家に行かなかったの?」って聞かれたとき「え、なんで家に行かなきゃ行けないんですか?」と返したらしいですから。

湯山 女としてのイメージが好きなんだよね。それって、もう日本男子の伝統芸でしょ。銀河鉄道スリーナインのメーテルさましかり。AVでも、いろんな女優さんが出ているのに、態度や行動はかなり狭い枠の中にはめこまれている。

松尾 監督をしているボクが言うのもなんですけど、たしかにAVはオヤクソクが多すぎます、本来は自由な表現ができるはずなのに。

湯山 女の人の「型と枠」が固定していますよね。ちなみに、私は、年末にかけてベルリンにオベラとコンサートを観に行っていて、昼間はサウナ、スパ三昧だったんですよ。中央駅近くに凄いスパができたというので行ってみたら、そこはバリ島リゾート仕様のスパ施設で野外温泉プールもある。でね、ドイツのスパって基本、全裸で混浴なんですよ。おばあちゃんおじいちゃんから、若者まで基本カップルで来ていて、裸で泳いだり、くつろいでいる。そこでは男女の肉体は肉体として、情欲と切り離すという文化的合意があるんですよ。こういうモラルの中でもしAVを撮るとなると、いったいどういう感じになるのかな、と。いや、そもそも彼らが、日本のAVの状況を見たらどう思うかなと。

AVが身近にあった世代となかった世代で異なる価値観

松尾 もともとヨーロッパではポルノは、ビザールだったりSMだったりとマニアの性欲を満たすための特殊な扱いだった。ポルノやAVを見ている人は、いい意味で「変態」っていうことですよね。

湯山 でも今の日本では、変態のほうが大多数だよね。しかも「観るだけ変態」の住人になっている。

松尾 そもそも初体験をする前にAVがある世代と、ない世代の違いってものすごく大きいと思うんです。初体験する前に映画や小説ぐらいしか情報がなかったボクらの世代は、オールドタイプ。この世代は実際に性体験してからも、うまくいかないことも含めて経験を積み重ねていく。でもニュータイプの世代は、自分がセックスをする前に、「セックスしたらどうなるか」をあらかじめ動画で見ているから、すぐに女性は気持ちよくなるものだと思ってる。そもそもAVって極端なものだから、そういう人間しか出てこないんですよ。

湯山 あんなにすぐにイクもんなのかね、と見ていて思ってしまいますよ。

松尾 リアルにセックスをしていたら、男がうまくできないときもあるし、痛がる女の子だっている、そこで「あー、ごめんね」とケアするような現実がある。長い年月だったり、相手との間にいろいろなできごとあった末に「イク」へ達するわけだけど、AVはそこを端折っているわけで。

湯山 だから若い子がセックスレスになってしまうのは、容易に想像がつくよね。実際のセックスは、お手本通りに進まないし、学ぶ過程で傷つきながら熟練していくものだけれど、その手前で「所詮、こんなもんでしょ」と諦める空気が今の若い男の子の間には蔓延していると思う。

松尾 最初から性能のいい超一流男優のセックスを見てしまっているから、確かに実際のセックスは面倒だと思いますよ。だからセックスを見ているだけの傍観者になってしまう。逆に気持ちとは別に最初からアスリート並のセックスを刷り込まれて、それをフィードバックする高性能な女の子が出てくるから、ボクたちとしては仕事しやすい側面もあるんだけど。ボクはセックスがすごくできる人よりも、裸になる理由も含めてAVを撮ってるつもりなんですが、当人たちはそのあたりの情緒的な話は一切、語らずに「バンバンセックスしてください」という声も出てくる、そんな変化も感じていますよ。

湯山 40代や50代の熟女になると、熟女女優としてデビューしたり、中には子どもと一緒にAVに出演するなんて話もあって、上の世代の意識もがらっと変化しているようにも思えます。

松尾 世代論になってしまうけど、1960年生まれ以降は意識が変わっているとも言われますね。

湯山 そうかも。私も60年生まれなんですけど、そのころは「11pm」のようなお色気番組がテレビで流れたり、映画「エマニエル夫人」が公開されたりと性に対しては割と肯定的な世代かもしれません。

松尾 そんな我々の世代と、初体験をする前から動画があった世代とでも、セックスや男気へのとらえ方も変わりますよね。この「アイキャノ」でも岩淵の姿を見て「その男気に感動しました!」という声も実際あるし、湯山さんのように粋を求める人もいて、意見が分かれると思います。「劇場版アイドルキャノンボール2017」は、情報量がとても多い。その結果、何度見ても面白いけど、1回見ただけではよくわからないという快作となりました。どうぞご期待ください。
(おわり)

***
この対談は、『劇場版 アイドルキャノンボール2017』をご覧になったあとで読むとより一層楽しめます。ぜひ劇場に足をお運びください。
公式HP : http://idol-cannon.jp 

また、お二人の前回の対談『劇場版テレクラキャノンボール2013』が教えてくれる男と女とその時代』は電子書籍で発売中です。

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カンパニー松尾

AV監督。1965年愛知県生まれ。1987年、童貞でAVメーカーV&Rプランニングに入社。翌88年、監督デビュー。特技はハメ撮り。趣味はカレーとバイク。1996年、V&Rを退社しフリーとなり、2003年、自身のメーカーHMJM(ハマジム)を立ち上げる。代表作として『私を女優にして下さい』、『テレクラキャノンボール』など。2014年劇場映画公開「劇場版テレクラキャノンボール2013」が大ヒット。その後『劇場版BiSキャノンボール2014』も話題に。ミュージシャン・豊田道倫のPVやライブ撮影を手掛けている。

湯山玲子

著述家、プロデューサー。日本大学芸術学部文芸学科非常勤講師。自らが寿司を握るユニット「美人寿司」、クラシックを爆音で聴く「爆音クラシック(通称・爆クラ)」を主宰するなど多彩に活動。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッションなど、カルチャー界全般を牽引する。著書に『クラブカルチャー』(毎日新聞社)、『四十路越え!』(角川文庫)、『女装する女』(新潮新書)、『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『ベルばら手帖』(マガジンハウス)、『快楽上等!』(上野千鶴子さんとの共著。幻冬舎)、『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』(KADOKAWA)などがある。

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