アルテイシアの熟女入門を連載中のアルテイシアさんの新刊『アルテイシアの夜の女子会』が発売になりました。
新刊では、金田淳子さん(社会学研究者・BL研究家)と「夢豚と腐女子が語る、エロスの歴史」対談で、BLのおもしろセックスやエロスの歴史について語り合っています。
今回は書籍には収録されなかった、お二人のはみだしトークをお届けします!
(前編はこちら)
金田淳子/社会学研究者。やおい・ボーイズラブ・同人誌研究家。1973年富山県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学(社会学)。共著に『文化の社会学』(佐藤健二・吉見信哉編著、有斐閣)初収の「第七章 マンガ同人誌 解釈共同体のポリティクス」、『オトコのカラダはキモチいい』(二村ヒトシ・岡田育・金田淳子、KADOKAWA)がある。ツイッターアドレスは@kaneda_junko。
■江戸時代のアナル
アル:(前編では)古代ギリシャのちんぽの話になりましたが、日本でもセックス関係の文献はいろいろ残ってるんですよね。
金田:私は歴史の専門家ではないですが、日本だと、特に江戸時代の文献はたくさん残ってますね。庶民の残した文献もいっぱいありますし。
アル:金田さんの専門のアナルについても書かれている?
金田:渡辺信一郎さん著の『江戸の色道ーー古川柳から覗く男色の世界』(新潮選書)という、主に江戸時代の川柳から男色関係を類推した本が面白かったっです。これによると、アナルを使わせてくれる相手は三種類いて、ひとつめは武士の念者・念弟(ねんてい)というカップル関係における、受けにあたる念弟のほう。ふたつめは陰間、男娼ですね。みっつめは寺の稚児ですね。寺に入ったらとりあえずアナルを使われると思って間違いない。
アル:一休さんですか。
金田:一休さんですよ。現代的視点から見ると、はっきりと刑法にも子どもの権利条約にも違反しているのですが、『稚児草紙』という鎌倉時代ごろに書かれた絵巻物は、まあたぶんポルノとして使われていたんでしょうけど、物語形式で、僧と稚児のセックスを描いているのですが、「自分でアナルに棒を入れて広げて準備しておく」みたいな文章も残ってます。
アル:じゃあ息子を寺に入れる時は、この子もアナルを使われるんだという覚悟で、一休さんの母上様も。
金田:母上様もそういう覚悟でしょうね。ただ通常は、何らかの事情があって寺に入るものなので、武士の子なら寺に入って坊主にならないと殺されてしまうとか、農民の子なら口減らしのためとか。寺に入らないと死ぬわけですから。
アル:アナルの一つや二つ。
金田:そういう覚悟はあったんじゃないでしょうか。あとアナルを掘られることに対して、現代的な視点で想像するほど嫌な気持ちがあったかもわからないですよね。まあ最初は絶対痛いだろうし、相手が嫌いな男だったら、本当に嫌な気持ちだろうなと私は思いますが。
アル:そうですよね。しかも小さい子どもがスパルタな環境に放り込まれて。
金田:厳しい修行をしなければならないし、先輩の僧には気をつかわなきゃならなくて。
アル:そりゃ和尚の水あめも舐めたくなりますよ。
金田:ねえ、水あめぐらい上げていいでしょって言いたくなります。陰間や稚児関連の絵巻などに書いてあることは、セックスワーク関連以外でも、基本、むちゃくちゃ厳しいんですよ。稚児は、相手の僧が圧倒的に目上だから、セックスが終わった後はさっと帰れとか、寝る姿を見られてはならぬとか。
アル:つらい…。
金田:僧と稚児とが相思相愛の物語はたくさん残っていますが、正直、稚児からみて本当にそうだったかどうかはわかりませんよね。稚児など年齢も身分も低い側の証言や文章は、後世に残らない。運よく寵愛されて、僧などにランクアップした元稚児は、今度は掘る側になるので、掘られる側が辛かったという話は、見る限りではありません。本当に辛いと思った子どもは、たぶん寺から逃げていなくなるんでしょうし。
アル:部活のしごきみたいなものですよね。自分も掘られてつらかったから、後輩も掘ってやるみたいな。
金田:そうかもしれません。あと、『人物を読む日本中世史 頼朝から信長へ』(本郷和人)などに記述があるのですが、鎌倉時代に、東大寺別当というナンバーワンの地位までのぼりつめた、宗性というとても勉強家の、偉いお坊さんがいて、たくさんの真面目な文章を残しました。が、その真面目な文章の裏に、落書きのようにさらさらっと書きつけた文章も残っています。歴史用語で、いわゆる「紙背(しはい)文章」と言われるものですね。実はこれが面白くて、彼が36歳のときに、「これまで自分は95人の男の子とやった、100人までやる」みたいなことを書いているんです。
アル:何それ。偉いお坊さんが?
金田:そう、それで「100人までいったら禁欲する」とか書いていて、それって禁欲とは言わないんじゃ?さんざんやってるやんけ、と、著者で歴史学者の本郷和人先生もツッコんでいます。
アル:そんなことを書き残して、まさか後世まで残るとは思ってなかったでしょうね。
金田:他人に公開する目的じゃない、自分のために書いた落書きだからね。とはいえ、表の文章は重要なことが書いてあるので、ずっと残るとわかってるわけだから、僧にとっては、よくあることというか、別に恥ずかしい内容ではないんでしょうね。周りも「あいつは相当のアナル好きだ」みたいに思ってただろうし。
アル:むしろ「拙僧、95人もやってまーす!」と自慢したかったのかも。江戸時代にもヤリチンブログを書く人間はいた、ということですかね(笑)
■処女の勘違い
アル:十代の頃、金田さんはBL小説を書いていて、私は夢小説を書いていた、という話をしましたけども(※詳しくは新刊を)。私は中高と女子高で男子と接点がなくて「喪というより無」だったんですよ。
金田:私は共学なんですが、同じく、無でした。彼氏ももちろんいなかったし、だからモデルにするアナルもちんぽもなかった…いや、アナルは自分のを見ようとすればできるか。
アル:ダルシムみたいな動きが必要ですけどね。
金田:柔軟性。
アル:以前、ニコ動の対談で「東大に入学した頃はアップリケ処女だった」と仰ってましたよね(笑)
金田:そうそう、ファッションとか全然わからない原始人で、アップリケのついた服とか着てた。アップリケつけて竪穴式住居から飛び出してきた感じ。
アル:私はシノラー処女だったんですが、大学時代に初めてセックスして、いろいろ衝撃でした。「ちんぽってエイリアンの幼体みたいなんだ…!」とか。モフモフの猫のしっぽみたいな、ファンシーなものを想像してたんです。
金田:当時はネットで実物を目にする機会もなかったですもんね。
アル:女子校時代は周りもみんな処女だったんで。(対談の前編で触れた古代ギリシャ研究家の)藤村シシンさんもずっと女子校育ちで、ツイッターに書かれてましたけど「ザーメンのことを、ラーメンに浮いている脂の名前だと思ってた」っていう(笑)
※藤村シシンさん/古代ギリシャ・ギリシャ神話研究家。古代ギリシャや、ギリシャ神話に対して、一般的日本人が抱きがちな「誤解」を解き、紀元前のギリシャの姿を鮮やかに説明する単著『古代ギリシャのリアル』(実業之日本社)が、七刷出来で好評発売中。ツイッターアカウント@s_i_s_i_n)
金田:あれすごい面白いよね(笑)。私も使っていきたいなと思いました。「すっごい量のザーメンですねー!」って。でもラーメンはトラップですよ。だって、ザーサイラーメンというのもこの世にはあって。
アル:それはもうザーメンですよね。
金田:そのメニュー、やめろって。絶対に言い間違うだろって。
アル:あとシシンさんがツイッターに書かれてましたけど、BLでは精液を舐めて「苦い…でも美味しい」みたいなセリフが多いから「ふきのとうの天ぷらみたいな味だと思ってた」って(笑)
金田:ほろ苦い春の味覚(笑)。たしかにBLでは、メインカップルの精液が悪い印象に描かれることはまずないから。
アル:「えぐい、生臭い!」とか言わないから。
金田:特に、攻めが受けの汁をすごい美味しそうに飲むシーンは多いですね。最近は受けのほうが積極的にフェラチオをしますけど。
アル:そういうのを読んで「精液って美味しいのか~」と思ってて、いざ口にして「げえっ、まずい!」とびっくりする女子はいるかもしれませんね。でも、そこまで弊害はない気がします。それより「初体験で処女がガンガン突かれてイキまくる」みたいな描写の方が弊害があると思うんですよ。
金田:わかります! ザーメン飲んでまずいのは完全に自業自得ですが、処女をガンガン突くのは、突いてる側が痛い目に遭うわけじゃないから! そこ重要!
■ちんぽが入らない問題
アル:というのも、処女の読者から「初体験で痛くて入りませんでした、私の体がおかしいんでしょうか?」みたいな相談がいっぱいくるので。
金田:ほ~~、いっぱいくるんだ。
アル:きますよ。産婦人科医の友人も「パートナーのペニスが入らない、自分に問題があるのか?」と悩んで受診する女性は多いと言ってました。
金田:たしかに最初は入りづらいし、あと純粋にサイズの問題もあるよね。膣とペニスのサイズが合わずに入らなかったって話は、リアルに何度か聞いたことあるから、そんなに珍しい話じゃないと思いますね。
アル:そうそう、膣もペニスも人それぞれサイズが違うから。「俺はキングサイズだ!」とか自慢する男もいるけど、女にとっては迷惑なだけ、下手したら凶器だぞと思う。
金田:本当にそう。大きすぎるよりは古代ギリシャサイズ(※小さいほうが良いとされていた)のほうがいい。それで「大丈夫だから」とかって無理やり入れたら傷害罪だから。
アル:膣が裂けて大出血することもありますからね。ニコ動のコラムで「膣をほぐして伸ばす方法」を紹介したら、「彼氏にも協力してもらって、半年かかって入りました!」みたいな報告をいくつかもらいました。
金田:おー、やった。がんばったのね。
アル:時間をかけてちょっとずつほぐして伸ばすには、パートナーの協力と信頼関係が必要だと思います。
金田:ほんと、誰が相手でも一晩で入るとか思わない方がいいよね。フィクションでも、ちんぽ側が緊張して勃たなくて終了、というのはわりと見るけど、まんこやアナル側のサイズが小さくて入らない、というのは、私の本の選び方が悪いのかもしれないけど、無理やり入れる話ばかり見るのね。男女ものと比べると、BLは比較的「挿入しづらさ」が前提となっているけど、それでも、「協力しあった結果、数か月後に入った」とはっきり書いてあった話は、過去に1回、BL小説で見ただけかな。商業誌だと、必ずセックスを盛り込んでくださいと編集から言われることも多いから、挿入できませんでした、と書きづらいのはわかるけど。
アル:漫画とかでも「~半年後~」みたいに描いてほしいですよね。
金田:いいですね、描いてほしいですね。2人で「入ったぞー!やったー!」と喜びあうようなやつ。
アル:「青函トンネル開通!」みたいな(笑)。そういうのは見かけなくて、「無理やり入れたけど女がアンアン悶え始める」みたいな話が多い。それはあくまでファンタジーであって現実は違うよ、とちゃんと浸透してほしいです。
金田:マジで、サイズが合わないことはあるから! そしたら真面目に話し合って、双方が「結合したい」と思ったなら、アルテイシアさんの膣トレーニング記事を読んで、二人で協力し合って、少なくとも半年トレーニングしてください。
アル:でも女子は痛くても我慢しちゃう子が多いんですよ。それでセックス嫌悪症っぽくなったりとか。『夜の女子会』はおもしろエロ話がメインだけど、パートナーへの要望の伝え方、セックスの満足度の高め方についても書いているので、参考にしてもらえれば嬉しいです。
『アルテイシアの夜の女子会』刊行記念対談 「夢豚と腐女子が語る、エロスの歴史」はみだしトーク
『アルテイシアの夜の女子会』が発売になりました!この本では、金田淳子さん(社会学研究者・BL研究家)と「夢豚と腐女子が語る、エロスの歴史』対談で、BLのおもしろセックスやエロスの歴史について語り合っています。今回は書籍に収録されなかった、お二人のはみだしトークをお届けします。