2つのノーベル物理学賞に寄与した素粒子実験装置カミオカンデが、実は当初の目的「陽子崩壊の観測」を果たせていないのはなぜ? 元NASA研究員の小谷太郎氏が物理学の未解決問題をやさしく解説した『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』が発売1週間で重版となり、反響を呼んでいます。
「タブー1 陽子崩壊説」をまるごと公開する第2回。ヒッグス粒子、強い力、弱い力など、なんとなく耳にすることの多い物理学用語。それって結局のところ、どんなものなのでしょうか?
6種の素粒子「レプトン」
2017年現在知られている素粒子の仲間(図1-2)を全部紹介するには、もう少々粒子名を並べていかないといけません。無秩序で聞き慣れない粒子名にもう少しおつきあいください。新粒子に命名した研究者に、ネーミングのセンスがあるとは限らないのです。
電子にも仲間の素粒子が見つかりました。「μ(ミュー)粒子」と「τ(タウ)粒子」です。これらの粒子はどれも電子と同じ電荷を持ちます。
電子、ミュー粒子、タウ粒子から、電荷を取り除いて中性にしたような素粒子があります。「電子ニュートリノ」「ミュー・ニュートリノ」「タウ・ニュートリノ」の3種です。電荷と一緒に質量も取り除いたことになって、3種のニュートリノは質量がほぼゼロです。わずかに質量があるようですが、まだ測定に成功していません。
3種のニュートリノと、それに電荷を付け加えた電子、ミュー粒子、タウ粒子の6種は合わせて「レプトン」と呼ばれます。
5種の媒介粒子とヒッグス粒子
クォークやレプトンといった素粒子は、互いに電磁気力や重力といった力を及ぼします。原子核の内部のようなごく短距離で働く核力や、電子を電子ニュートリノに変えたりする奇妙な力もあります。
素粒子の間に働く力には、その力を媒介する粒子が存在します。力が働くときにはその媒介粒子が飛ぶと解釈するのが素粒子理論の考え方です。例えば電子とクォークの間に電磁気力が働くことは、電磁気力の媒介粒子が電子からクォークへ、クォークから電子へ飛び、受け取られることだと見做(みな)すのです。
電磁気力を媒介する粒子は「光子」です。光(電磁波)の放射は光子という粒子を発射することだと説明されますが、それと同じ粒子です。光子は電磁波の放射や電磁気力が働くときに活躍します。
重力を媒介する粒子は「重力子」というわかりやすい名前で呼ばれます。これについては観測的な研究が進んでいません。なにしろ重力波が2015年に発見されたばかりです。ほとんどの研究者は重力子が存在するものと考えていますが、観測的証拠はまだありません。未発見なので図1-2には入れていません。
原子核内で核子の間に働き、原子核を安定させている核力は、「グルーオン」という粒子に媒介されます。グルーは「のり」という意味で、核子どうしを接着していることから命名されました。
ニュートリノに働く力は「弱い力」というはなはだ紛らわしい名前がつけられています。何に比べて弱いかというと、核力に比べて弱い力です。核力は「強い力」とも呼ばれます。弱い力を媒介するのは「W粒子」と「Ζ粒子」の2種類の粒子です。
これら5種の媒介粒子はやはり素粒子と見做されます。
最近、新しい素粒子が発見されました。「ヒッグス粒子」です。ヒッグス粒子はW粒子とΖ粒子に質量を与える働きがあります。
素粒子の大統一理論
今のところ、(重力子を除いて)これらが実験的に確かめられた素粒子です。つまり発見された素粒子です。6種のクォーク、6種のレプトン、それらの間の力を媒介する5種の粒子、質量をもたらすヒッグス粒子をまとめたものが図1-2です。(細かいことをいうと、これらの粒子のほとんどには反粒子が存在しますが、図には載せていません。)
これらの素粒子の間に働く力や、素粒子の結合によってどのような複合粒子ができるかを説明する理論は、おおむね完成していると考えられています。素粒子の「大統一理論」という、たいそう立派な名前の理論です。
そしてその大統一理論によれば、原子核を構成する部品である陽子や中性子には平均寿命があって、やがては崩壊するというのです。
(つづく)
元NASA研究員の小谷太郎氏が物理学の未解決問題をやさしく解説した『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』好評発売中!
次回は2月24日(土)公開予定です。
言ってはいけない宇宙論
2018年1月刊行『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』の最新情報をお知らせします。