肉中心の食生活をしてきた欧米人と比べ、魚と穀物中心だった日本人は、摂取した脂肪を「皮下脂肪」ではなくもっと危険な「内臓脂肪」の形で蓄積しやすい体質です。内臓脂肪をそのまま放置すると高血圧や糖尿病など生活習慣病はもちろん、各種のがんや認知症の原因になることもわかってきました。
奥田昌子さんの最新刊『内臓脂肪を最速で落とす 日本人最大の体質的弱点とその克服法』は、肉や炭水化物の正しい摂り方、脂肪に効く食材、効果抜群の有酸素運動などを最新の論文をもとに解説していて、続々重版となる大反響です。
なぜ日本人は危険な内臓脂肪が付きやすい体質なのでしょうか? 今回はその理由について、奥田さんの見解をご紹介します。
内臓脂肪は日本人の弱点だった!
ここで、衝撃の事実をお伝えします。
同じ男性でも、白人男性は内臓脂肪があまり付きません。
欧米のなかでも米国は体格のよい男性が目立ちますが、驚いたことに皮下脂肪がかなりの部分を占めています。平均年齢45歳の日本人と米国白人を対象に、腹部CTスキャン検査でおなかの断面を撮影して、皮下脂肪と内臓脂肪の面積を比較した研究があります。外見が似た人どうしで比較できるように、腹囲にもとづいて参加者を4つのグループに分けて、同じグループのなかで日本人と米国白人をくらべました。
すると、腹囲が小さいやせ型のグループも、腹囲が大きい肥満型のグループも、すべて日本人のほうが皮下脂肪が少なく、内臓脂肪が多いことがわかりました。
たとえば腹囲が88.9~96.8cmのグループを見ると、画像上の内臓脂肪の面積は米国白人が85.5平方cmなのに対して、日本人は101.7平方cmあります。
内臓脂肪の面積が画像上で100平方cm以上あると心臓病の危険が高まります。この日本人男性のグループは日本の腹囲の基準85cmを超えており、やはり、こういう人たちは内臓脂肪がしっかり付いていることがわかります。ところが、腹囲が同じくらいの米国白人は内臓脂肪が85.5平方cmしかないのですから、余裕しゃくしゃくです。
腹囲の基準値は日本と米国でかなり違い、日本の85cmに対して米国は約102cm(40インチ)です。この基準値の意味は、腹囲約102cmの米国白人に付いている内臓脂肪の量と、腹囲85cmの日本人に付いている内臓脂肪の量が同じということです。
同じ日本人でも女性は内臓脂肪が付きにくく、糖尿病の発症率が男性の半分しかありません。欧米人は女性だけでなく男性も内臓脂肪がたまりにくいことから、糖尿病の発症率は男性と女性がほぼ同じです。
日本人男性は白人男性とくらべるとずっとスリムなのに、残念ながら内臓脂肪が付きやすいため、体型が同じなら生活習慣病を発症しやすいということです。この傾向は日本人だけでなくアジア人全体で見られます。
アフリカ系の人は白人より内臓脂肪が付きにくい
では、ここにアフリカ系の人を加えて考えてみましょう。
おなかの皮下脂肪の厚さが同じ白人と日本人、そして欧米在住のアフリカ系の人を対象に、内臓脂肪の面積がどのくらい違うか比較しました。すると、日本人は白人とくらべて内臓脂肪の面積が平均で15平方cm大きいことが明らかになりました。予想通りの結果です。
ところが、驚くなかれ、アフリカ系の人は、内臓脂肪の面積が白人より38平方cmも小さかったのです。人種別にならべると、こうなります。
内臓脂肪が付きやすい順に、
日本人 >> 白人 >>>>>>>> アフリカ系
これほどの違いが生まれた原因は明らかになっていませんが、「日本人は脂肪を皮下脂肪としてたくわえる力が弱いからではないか」という指摘があります。
肉食中心の欧米人が脂肪を大量に摂取してきたのに対し、アジア人は脂肪の少ない食生活を続けてきました。そのため、安全な皮下脂肪の形で脂肪をためる能力が発達しておらず、内臓脂肪の形で蓄積してしまうのではないかというのです。
確かに、日本の一般庶民が天ぷらなどの揚げ物を口にするようになったのは江戸時代のことで、18世紀の後半とされています。まだ200年くらいしかたっていません。200年程度では体は変わりませんから、日本人が脂肪をうまく処理できないのもしかたないといえそうです。
しかし、この説明だけでは不十分ですね。アフリカ系の人たちは白人以上に内臓脂肪が付きにくいのです。でも、アフリカ人が脂肪の豊富な食生活を送ってきたという事実はありません。
内臓を筋肉で支える人種、脂肪で支える人種
ここからは推測ですが、この背景には、内臓を固定するという内臓脂肪本来の仕事が関係しているように思います。
内臓は腸間膜でつり下げられていて、これをじん帯と筋肉が支え、さらに、すきまを内臓脂肪が埋めています。おなかの筋肉というと、鍛えることで割れて見える腹直筋(ふくちょくきん)を思い浮かべますが、実際には腹直筋の下に何層も筋肉があり、この全体を指して腹筋と呼んでいます。
さて、筋肉に赤と白の二種類があると聞いたことはありませんか? 赤い筋肉はゆっくり長い時間にわたって働くことができ、白い筋肉は瞬間的に大きな力を発揮します。
この赤い筋肉と白い筋肉がよくわかるのが魚です。マグロに代表される赤身の魚は筋肉の大部分が赤い筋肉で、広大な太平洋を回遊しながら成長を続けます。それに対してヒラメなど白身の魚は白い筋肉を持っています。普段は海底で獲物をじっと待ち構え、チャンスと見るや、すばやく追いかけてつかまえます。
人の筋肉は赤と白の成分がいろいろな割合で混ざっているため、この筋肉は赤、これは白、とはっきり区別することはできません。赤白どちらの成分が多いかは個人差もあるものの、それ以上に大きいのが人種による違いです。
これは遺伝子で決まっていて、人種ごとに平均すると、アフリカ系の人は筋肉全体の約70パーセントが白い成分であるのに対し、白人は50~60パーセントが白、これに対して日本人は逆に70パーセントが赤い成分といわれています。日本人は白い成分が少ないのです。
腹筋は体の表面に近い筋肉ほど白い成分が多く、体の奥に行くにつれて赤い成分が多くなります。内臓を支えるのに役立つとされる筋肉はおなかの両側にある腹横筋(ふくおうきん)と腹斜筋(ふくしゃきん)で、腹斜筋はさらに外腹斜筋と内腹斜筋に分かれます。腹直筋の両側から、ちょうどコルセットのように内臓をかかえるかっこうになっているのです。
これらの筋肉は比較的浅いところに位置していて、白い成分がかなりの割合を占めています。もともと白い成分が多いアフリカ系の人は、この腹横筋と腹斜筋が強いのですが、赤い成分が中心の日本人はこれらの筋肉が弱く、内臓を十分に支えることができません。そのため、代わりに内臓脂肪を増やして内臓を固定するようになったのではないかと考えられます。
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