皮下脂肪より危ない内臓脂肪。そのまま放置すると高血圧や糖尿病など生活習慣病はもちろん、各種のがんや認知症の原因になることもわかってきました。奥田昌子さんの最新刊『内臓脂肪を最速で落とす 日本人最大の体質的弱点とその克服法』は、肉や炭水化物の正しい摂り方、脂肪に効く食材、効果抜群の有酸素運動などを最新の論文をもとに解説していて、発売1週間で重版となる大反響です。
今回はその中から、内臓脂肪が認知症にまで影響するという驚きの研究内容をご紹介します。
ここまでわかった! 認知症のかげに内臓脂肪あり
高齢化が進むなか、認知症をわずらう人が急速に増えています。認知症の半分を占めるアルツハイマー型認知症の患者数が2020年には535万人にのぼるという推計もあり、この人数は将来さらに増えると予想されています。
しかし、有効な治療薬の開発は十分に進んでいません。アルツハイマー型認知症は長らく原因が不明だったからです。
それが、最近の研究で、遺伝に加えて、高い濃度のインスリンと、脳の血管に起きた動脈硬化が大きな役割を果たすことが明らかになってきました。そうです。認知症の背景にも、おなかの脂肪があるのです。
実際に、アルツハイマー型認知症の患者さんの60パーセントが、内臓脂肪の面積が基準を超えていますし、米国では、中年期に肥満の人は認知症の発症率が3倍高くなると報告されています。
これが肥満だけでなく、血圧、脂質も基準を超えたメタボリックシンドロームとなると、危険がもっと大きくなります。これらの項目がいずれも基準値におさまっている人と比較して、メタボな人は認知症の発症率が6倍以上高くなり、しかも、こういう人が認知症を発症すると、認知機能の低下が速く進むこともわかりました。
なぜ、おなかの脂肪が脳の神経細胞に悪い影響をおよぼすのでしょうか。
神経細胞を破壊するアミロイドβ(ベータ)という蛋白質があります。動物実験などによると、内臓脂肪から分泌される悪玉物質がアミロイドβを脳に蓄積させるようです。
また、インスリンにはアミロイドβを分解して神経細胞を守る作用がありますが、内臓脂肪がたまるとインスリンの効き目が悪くなり、神経細胞を保護できなくなってしまうのです。
この他に、血糖値が上がると、ブドウ糖が脳の血管と神経細胞の働きを低下させることも指摘されています。
インスリンは膵臓だけでなく、脳の一部でも作られています。脳がしっかり機能するにはブドウ糖からエネルギーを大量に取り出す必要があるから、すぐインスリンが出動できるように脳の中で作っているのでしょうか? いえ、そうではありません。脳の神経細胞には変わった特徴があり、インスリンがなくてもブドウ糖を取り込むことができるのです。
近年、脳のインスリンが、脳の中の記憶と学習にかかわる部分で重要な働きをしていることを示す証拠が集まってきています。アルツハイマー型認知症を発症すると新しい記憶から失われていきますが、脳のインスリンの効き目が悪いために十分に記憶できなくなるからかもしれません。
糖尿病でもインスリンの効き目が落ちるため、糖尿病の人はアルツハイマー型認知症の発症率が2倍高く、とくに記憶力がそこなわれやすいとされています。
生活習慣を見直せば認知症は防げる
認知症のなかでアルツハイマー型認知症の次に多いのが、脳梗塞を原因とする脳血管性認知症です。この脳血管性認知症は高血圧との関係が深く、血圧が健康診断で「経過観察」程度であっても、血圧が正常な人とくらべると脳血管性認知症の発症率が4.5~6倍高いというデータがあります。
注意したいのは、実際に調べてみると、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症のどちらかではなく、両方を同時に発症している患者さんが少なくないことです。なぜこんなことが起きるのでしょうか?
答えは簡単ですね。アルツハイマー型認知症も、脳血管性認知症も、もとをたどると同じ原因に行きつくからです。それが内臓脂肪です。
英国の大部分を占めるイングランドは、「心臓に良いことは脳にも良い(What's good for your heart is good for your head)」というスローガンのもと、国をあげて認知症対策に取り組んできました。認知症を予防し、進行を遅らせるには、心臓病、すなわち生活習慣病をしっかり管理することが欠かせないと考えたからです。
具体的には、1日の塩分摂取量を6グラム以下にするよう呼びかけるとともに、食品メーカーに働きかけて、市販の食品の塩分含有量に上限を定めました。たとえば、日本では4枚切りの食パン1枚に塩分が約1.2グラム、ケチャップ100グラムには約3.3グラム含まれていますが、イングランドでは、それぞれ1.0グラム、1.8グラムまでしか入れることができません。
また、タバコを値上げして一箱約1500円にし、病気を予防するための指導を行えば医師が報酬を得られるようにしました。
さて、その成果はどうだったでしょう。
驚くなかれ、イングランドの認知症発症数は20年間で4分の3まで減ったのです。先進国はどこも高齢化が深刻で、これに伴って認知症が急増すると予想されていました。イングランドの挑戦は、この予想をくつがえしただけでなく、認知症は予防できるという、大きな希望をもたらしました。
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