思想家・吉本隆明氏の家に集う猫と人の、しなやかでしたたかな交流を綴った『それでも猫はでかけていく』より、試し読みをお届けします。
これまでの我家の猫歴ですが、血統書付きを購入したり、ピカピカの健康体で貰われてきたりした猫は1匹もいません。ほとんどが、弱って動けなくなったノラや捨て猫を保護し、家に入れることになったというパターンです。
そのため歴代の猫たちは最初からハイリスクで、お決まりの慢性鼻気管炎や腎不全、肝不全に始まり、エイズ、伝染性白血病、胃ガンに脳腫瘍まで、ありとあらゆる病気の見本市のようでした。
昨年、長患いの胃ガンと、進行の早い延髄の腫瘍で立て続けに2匹を亡くし、「ああ、これであらゆる看病の苦労と、看取る側のツラさを味わいつくしたな。もうコワイモン無しだぜ。何でも来い!」と思っていたら、やって来ました! この「シロミ」です。
この先何年寿命があるのか分からない、もらし続ける障害猫をかかえて生きていく……まだこんなテが残っていたとは……。「神よ! さらなる試練を私に与えたもうか!」と、(キリスト教徒ではないので)大いに神をののしりつつ、対策を練ることにしました。
まずは、完全ケージ飼いができないものかと考えました。使っていない部屋にケージを置き、それに慣れてくれればと思ったのですが、シロミは決してあきらめません。朝から晩まで鳴き続けます。ケージの中の水もエサもシートも、ひっくり返してグシャグシャ。シロミは糞尿まみれ。これでは猫も人もストレスでハゲそうです。第一シロミは、排泄困難以外は元気な育ち盛りの仔猫なのです。狭いケージに入れっ放しでは、運動機能や足腰の筋肉の発達によって、多少なりとも障害が改善していく可能性だって、奪ってしまうことになりかねません。ケージ飼いは、1週間ほどで断念しました。
次に考えたのは、オムツでした。よくTVのCMでやっている動物用オムツですが、あれは猫にはまったく役に立ちません。寝たきりの老猫ならまだしも、流線型で関節がなだらかな猫では、スルッと脱げ落ちてしまうのです。活発なシロミに至っては、片足も通せないままあえなく断念となりました。
そこで思い付いたのが、動物用腹帯として通販などで売られているボディースーツでした。そのお尻の部分を布でふさぎ、(人間の)女性用生理ナプキンをあてがうのです。これはかなりのヒットでした。
かくして試行錯誤の日々は続きます。