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2013.11.22 公開 ポスト

特集 生き方3.0 よしもとばななインタビュー

どん底で希望をつかむために(第1回)よしもとばなな

最新エッセイ『すばらしい日々』を上梓したよしもとばななさん。震災、放射能、両親の死――つらい日々の中で見えてきた「幸せになるヒント」を綴った本書は、これからの時代を生き抜くうえで大切な「優しさ」と「強さ」を教えてくれます。
 

普通の日常が続くわけがない

 10月に刊行されたよしもとばななさんの最新エッセイ集『すばらしい日々』。震災や、両親の死など大変な出来事が重なった時期に書かれたエッセイだが、よしもとさんの目を通して語られる日々は決して暗鬱なものではない。深い悲しみの中にも、胸が痛くなるような美しいきらめきがあり、まさに「すばらしい日々」だと強く感じさせられる。

「『すばらしい日々』って連載のタイトルだったんです。このエッセイは前半が雑誌に連載したもので、後半が書き下ろし。連載中から、親の病状もあまりよくなくて、後半はちょっと重めの内容になるんだろうなとは思っていました。でも、本を作っている間、本当にすごく楽しかったんですよ。写真を担当してくれた潮千穂さんもものすごくダイナミックなものを持っている人なんで、撮影旅行の最後、九州にいたあたりなんて、クライマックスって感じで盛り上がってしょうがなかった。本が完結に向かっていく感じがすごく楽しくって。だって、彼女、最後の最後に空港で、あと5分で搭乗って時にラーメンを食べるっていうんですよ。『やめなよ、絶対無理だよ!』って止めても、『いや行けると思うよ』って言い張る。『間に合うのに~』とか言いながら彼女が飛行機に乗り込んでいった瞬間が撮影旅行一番のフィナーレでしたね(笑)」

 震災が起きても、つらいことがあっても、美しいこと、楽しいことは消えてしまったわけではない。よしもとさんのエッセイはそうした「当たり前のこと」に気づかせてくれる。つらいこと、苦しいことにとらわれ過ぎないその姿勢は、一見ポジティブ思考のようにも思えるが、彼女は自身を「ポジティブではない」と語る。

「ポジティブなのって、欲深いなあって感じがしてあんまり好きではないんですよ。だって、無理に前向きになろうとするのって、何かを引き寄せたいとか、確実に目的意識があるわけでしょう。それはやっぱり、ちょっと違うんじゃないかなって思うんですよね。がつがつしてる感じがして、あんまり得意じゃないですね、ポジティブな人も場所も。人間ってそんなに前向きでなくてもいいんじゃないのって気がします。

  そもそも私は基本的にネガティブなタイプ。普段から、サバイバルモードで生きているんです。こんな普通の日常が続くはずがないといつもどこかで思っている。だから、幸せも怖いですね。反射的に怖い。無防備になるのが怖いって感じがあるんですよね。そういう感覚は、多分小っちゃい時に目が見えなかったのと深い関係があるような気がします。でも、その心構えが私に小説を書かせているのだから、いいんだと思ってもいるんです。
だから、正直言って、東日本大震災の時もあまり気持ち的に変化したり、揺らいだりということもなかったんです。もちろん、亡くなった方についてはいろいろ思うところはありましたけど、自分の人生という風に切り取って考えたら何も影響なかった。この気持ち、なかなか人に伝えるのが難しいんですよね。震災のことをすごく侮っているように思われちゃう。そうではなくて、それぐらい毎日がサバイバルモードなんだなという風に捉えていただけると幸いです」

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よしもとばなな

1964年東京都生まれ。「キッチン」で海燕新人文学賞を受け、デビュー。「TUGUMI」で山本周五郎賞、「アムリタ」で紫式部文学賞、「不倫と南米」でドゥマゴ文学賞を受賞。著書は世界各国で訳され、イタリアでスカンノ賞、カプリ賞受賞。著書に『さきちゃんたちの夜』『スナックちどり』など多数。

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