空き店舗を貸せない背景
地方都市の商店街は空き店舗が多い。シャッターが下りた店が立ち並び、いまの主人が店を閉めればそれでおしまい、というところが各地にある。人口の自然減に加えて若者が大都市へと流出し、地方都市の若者はどんどん減っている。それでも、空き店舗を借りて新しくカフェを開きたい、雑貨屋を開きたい、という意欲のある若者たちはいる。彼らに店舗を貸せば、商店街は活気をとり戻す可能性が出てくるだろう。
商店街の役員も役場の職員も、なんとかしてかつてのにぎわいを取り戻したい、人口を増やしたい、と思っている。ところが商店主には、空き店舗をなかなか貸せない事情がある。
地方都市の、とある空き店舗の1階で、家賃を月々20万円に設定している店がある。バブルの頃に床単価がものすごく上がったこともあって、商店主は賃料をなるべく下げたくない。現在の土地の評価額は下がっているのだが、「借り手が出なくてもいい。万一出ても値引きはしない」と言う。1人の店主がそう言うと、隣の店もまた隣の店も、と右に倣(なら)ってしまう。
それよりも、たとえば月4万円くらいで空き店舗を貸したほうが、結果的には店主のもとにお金が入るはずだ。家賃を月20万円にして20年間借り手が現れないよりも、初めは月4万円で貸して、徐々に月5万円、月6万円と上げていくほうがいいだろう。初めにどこかに借り手がつけば、別の業種が商店街に入ってきやすくもなるだろう。
家賃だけでなく、建物の構造も店舗を貸しにくくしている。昔ながらの商店街を思い浮かべるとわかるように、その多くは1階が店舗で、2階が生活スペースになっている。2階へ続く階段は店の入口にあり、トイレも1階に1つしかない店が多い。1階を知らない人に貸すと、入り口やトイレを共有しなければならない。かといって、階段やトイレをもう1つ作るのは大変だし、お金がかかる。それだけではない。貸した店が夜遅くまで営業していれば、その2階に住む早寝のお爺ちゃんはうるさくて眠れないかもしれない。飲食店を営業するなら火が出たらどうしようと心配で仕方がないというわけだ。
以上のような理由で、商店街の空き店舗はなかなか若い人に貸してもらえない。
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