私はもう二度と結婚することはないだろう。一人暮らしの気楽さに慣れきってしまったのだ。もう自分のくつろぎの場に、男性がいるということは考えられなくなってしまった。
私の台所で苦手な鯖を焼くことも、もう二度とないだろう。鯖の身体の表面にある黒い水玉模様も鳥肌がたつほど気持ちが悪かったし、青魚特有の油の匂いも苦手で、私は絶対に食べられないのだが、鯖は夫の大好物で、私が身を反らせて息を止めて焼いた鯖を美味しそうに食べる夫のことを、私は心の中で鯖男(さばお)と呼んでいた。
その鯖男も、浮気して大ゲンカの末、失踪した。その後しばらくは私も実家で寝込ませていただいた。うつ病になったのだ。寝込ませてもらえるところがあるということは、本当に幸せだと、一人で布団にへばりつきながら思った。
ここから先は会員限定のコンテンツです
- 無料!
- 今すぐ会員登録して続きを読む
- 会員の方はログインして続きをお楽しみください ログイン
さすらいの自由が丘の記事をもっと読む
さすらいの自由が丘
激しい離婚劇を繰り広げた著者(現在、休戦中)がひとりで戻ってきた自由が丘。田舎者を魅了してやまない町・自由が丘。「衾(ふすま)駅」と内定していた駅名が直前で「自由ヶ丘」となったこの町は、おひとりさまにも優しいロハス空間なのか?自由が丘に“憑かれた”女の徒然日記――。