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さすらいの自由が丘

2018.06.17 公開 ポスト

第14回

寅さんの実家「とらや」と私今村三菜(エッセイスト)

 私はもう二度と結婚することはないだろう。一人暮らしの気楽さに慣れきってしまったのだ。もう自分のくつろぎの場に、男性がいるということは考えられなくなってしまった。

 私の台所で苦手な鯖を焼くことも、もう二度とないだろう。鯖の身体の表面にある黒い水玉模様も鳥肌がたつほど気持ちが悪かったし、青魚特有の油の匂いも苦手で、私は絶対に食べられないのだが、鯖は夫の大好物で、私が身を反らせて息を止めて焼いた鯖を美味しそうに食べる夫のことを、私は心の中で鯖男(さばお)と呼んでいた。

 その鯖男も、浮気して大ゲンカの末、失踪した。その後しばらくは私も実家で寝込ませていただいた。うつ病になったのだ。寝込ませてもらえるところがあるということは、本当に幸せだと、一人で布団にへばりつきながら思った。

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さすらいの自由が丘

激しい離婚劇を繰り広げた著者(現在、休戦中)がひとりで戻ってきた自由が丘。田舎者を魅了してやまない町・自由が丘。「衾(ふすま)駅」と内定していた駅名が直前で「自由ヶ丘」となったこの町は、おひとりさまにも優しいロハス空間なのか?自由が丘に“憑かれた”女の徒然日記――。

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今村三菜 エッセイスト

1966年静岡市生まれ。エッセイスト。仏文学者・詩人でもある祖父・平野威馬雄を筆頭に、平野レミ、和田誠など芸術方面にたずさわる親戚多数。著書に『お嬢さんはつらいよ!』『結婚はつらいよ!』(ともに幻冬舎)がある。

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