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さすらいの自由が丘

2018.07.29 公開 ポスト

夫の金銭感覚と真夏の私今村三菜(エッセイスト)

 今日も暑い。暑すぎる。

 近所のお庭の柵にからまった、ノウゼンカズラの濃いオレンジがギラギラ光って、汗を拭きながら力なく歩く私を上の方から見つめている。

 ノウゼンカズラを見ると、夫と最後に一緒に住んだ練馬の夏を思い出す。練馬の夏は、今、私が一人で住む自由が丘より確実に暑かった。

 まだ夫婦仲が瓦解する前の夏、夫はソファでぐったり横になっている私に、「今から銀行行くぞ」と片手にお札を持って言った。私は、その夏も暑さに負けて、立ちくらみを起こしていた。「今日は体調悪いから、明日にして」と言うと、

「あなた夏は毎日、具合悪いじゃないの。せっかく、平日の3時前にオレがいるんだから、行くぞ、銀行」と言う。

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さすらいの自由が丘

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今村三菜 エッセイスト

1966年静岡市生まれ。エッセイスト。仏文学者・詩人でもある祖父・平野威馬雄を筆頭に、平野レミ、和田誠など芸術方面にたずさわる親戚多数。著書に『お嬢さんはつらいよ!』『結婚はつらいよ!』(ともに幻冬舎)がある。

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