2013年9月に『去年の冬、きみと別れ』を上梓した中村文則さん。痺れるような文体と、先の読めない物語展開が話題を呼び、大重版が決定した1冊です。
中村さんは、どんな思いで小説を書いているのか。中村さんにとって小説とは何なのか。何をきっかけに「書く側」に回ったのか。最終回となる今回は、小説家として過ごす日々について語っていただきました。
技術を上回る熱量で書く
来る日も来る日も小説を書き続けた――。
小説家になれるという保証はどこにもない。ただ、「自分の人生をこれに賭けてみようと思った」という対象に出会えた中村文則さんは、同世代の若者たちとは違う道を歩き始める。あえて故郷を離れて小説家を目指した日々を、懐かしむように振り返ってくれた。
「大学卒業後、東京に出て来たんです。週4日、8時から17時までコンビニでアルバイトをして生活費を稼いでいました。時給が850円、給料は月11万円くらいでした。お金がないから、1食200円と決めていたんです。そして、アルバイト以外の時間は小説のことだけに使っていました。書くか、読むか。そういう生活を2年間続けました」
華やかではなかったし、孤独でもあった。ただ、やることが明確なだけに目標に邁進できる強さがあった。ノートで構想を練り、ワープロを打つ。池袋のとある喫茶店にもノートを持ち込み、ひたすら小説を書いた――。デビュー作『銃』(第34回新潮新人賞受賞作)は、そういう日々の中で生まれた。
「デビューから10年以上経ちましたけど、当時も今も僕のやりたいことは『すごい小説を書くこと』なんです」
中村さんは、「良い文章が書けたら、その日は良い日」と言う。「小説の出来不出来によって、僕の人生の価値は決まる」とも言う。ゆえに、「書くこと」に対しては異常な集中力を発揮する。
「小説は、一日の中で最も頭が冴えている時間を使って書きます。少しでも頭が鈍ってきたら、その日は書くのをやめます。自分の一番良い状態だけを小説に使うんです。ものすごく集中して書いているので、あまり時間の感覚もありません。ふと気づいたら数時間経っていたりするのですが、そういう状態じゃないと僕は小説を書けないんです。書いている時は、小説以外のことはまったく考えていません」
格闘するようにして、小説を書いた。書けば書くほど、技術は上がった。だが、「もっとすごい小説を書きたい」という思いは、消えるどころかますます強くなっていく。日増しに高まる技術と熱量に支えられた作品は、国境を越えてアジアや欧米で翻訳されるようになった。
「海外の読者や評論家から、『こういう小説は読んだことがない』と言われた時は嬉しかったです。他の作品では味わえない世界観を構築できていたのかなと思えましたし、これからもそういう作品を書いていこうという思いを新たにしました」
英訳されてすぐ、中村さんの作品は高い評価を受けた。だがそれは、新たな戦いの始まりでもあった。
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