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特集〈狂わずして何が人生〉

2013.12.21 公開 ポスト

特集〈狂わずして何が人生〉著者インタビュー

踏破率90.2%!電車の虜になった男の生き様(第2回)杉山淳一

今回うかがったお話は、ズバリ「乗り鉄の楽しさ」。楽しみをたくさん見つけられる人って幸せです。

前回の記事:踏破率90.2%!電車の虜になった男の生き様(第1回)
 

 鉄道写真を撮ることに愛を注ぐ「撮り鉄」。模型に魅せられる「模型鉄」。時刻表だけで完結する「時刻表鉄」に、切符をコレクションする「切符鉄」、車輪のモーター音やアナウンスを採る「音鉄(おとてつ)」……近年、あらゆる「鉄」ファンがいる中で、乗ることに至福を感じる「乗り鉄」。その萌えポイントはどこに? 杉山さんおすすめの「ベスト10」の写真&解説とともに、飽くなき鉄道愛の世界へご招待!!

 

 記録のコレクションだけじゃない!「乗り」の楽しみあれこれ 

――杉山さんの新刊『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』には、おすすめの路線やルート、車窓ポイント、グルメ、予算に至るまで具体的に提案されていて、読むだけでも出かけているような楽しい気持ちになってきます。
 その中で時折、「鉄道はまずかっこ良くなくちゃダメだ」といった魂の叫びや、「本来はもっと長く乗っていたい。快速運転が恨めしい」といった乗り鉄の方ならではの視点かなと思うところがあって、新鮮でした。電車に乗って移動するだけでも、楽しく感じるところはあるのですが、こういう見方があるのか、と。

杉山 でも普通に電車って面白いですよね。座っているだけで動いているし、景色も変わるし。

――乗り鉄の方たちの間で使われる〝言葉〟も独特ですね。先頭車両に行って運転席の後ろから風景を眺めることを「かぶりつき」と言ったり、鉄道の話が多いことを「鉄分多め」とか。

杉山 「かぶりつき」は言いますね。「鉄分多め」は最近使われ始めたんじゃないかと思うんです。マンガの『鉄子の旅』の影響じゃないかなあ。鉄道趣味のことを「鉄」と呼ぶようになったのも、最近ですよね。その前は「てっちゃん」とか言われていましたが、僕が大学の頃は、「てっちゃん」という言葉を使っている人もいませんでした。でも「鉄」は「乗り鉄」「撮り鉄」と使ってみると実際便利ですし、広まるわけだ、と。

――あと驚いたのは「ダイヤ改正」と聞くだけで、乗り鉄の方はこんなに心躍るのかという。私は何の感慨も起きなくて……。

杉山 起きないんですか!? もったいない。僕はドキドキしますね。たとえば、京急電鉄は、「快特」があって、「特急」があって、「急行」があって、「普通」があって、抜きつ抜かれつが本当にすごいんですが、複々線の区間がない中でダイヤをどうやり繰りしているんだろう、とか考えるだけでもワクワクします。

――電車の「乗り入れ」も、萌えるポイントなのでしょうか。

杉山 萌えますね。いろいろな色の電車が来るじゃないですか。見てて飽きない。暇があればずっと見ていたいくらいです。それで僕は今住む部屋を決めちゃいました。僕の鉄道趣味の最大のコレクションは、今の部屋です。京急電鉄と乗り入れ先の電車がいろいろ並んで見える家でとっても楽しい。
 鉄道ファンのことを、みんな、「何鉄」「何鉄」と分類しますけど、本当はみんな全部やりたいんですよ。電車にまつわることならなんでも好き。ただ、可処分所得と可処分時間に照らし合わせて、どれがいちばん向いているかというところに突っ込んでいくだけです。僕は本当は模型もやりたいんですけど、窓から見えるから「自分で運転しなくても、動いてくれるし、いいじゃん」といった気持ちでいます。

――ある意味、贅沢ですね。家の外に巨大な模型があるわけですから。

杉山 そうです。だから何もしなくても、日がな一日、僕、缶ジュースを飲みながらずっと眺めてることもあります。でも最近、「他の電車も見たいな」という欲求も出てきてはいるんですが(笑)。

――書籍には、旅先で出会った人との印象深いエピソードも書いてあります。

杉山 出会いはけっこう面白いです。1人で乗っていると寂しい時もあるので、人の良さそうな方を見つけて話しかけたりします。ただ実際は、長い時間、何もしてない旅もたくさんしています。メモ代わりに写真を撮ることはよくありますが、始発から終電まで一日中乗ってぼおーっとしていたり。窓の外の風景をぼんやり眺めていて変な看板を見つけちゃったり。
 前にびっくりしたのは、静岡駅の地下道を歩いていたら、あの界隈、「杉山さん」が多いんですよね。看板がすごいんです。「杉山産婦人科」がまずあって、「杉山呉服店」とか「杉山◯◯」が続いて、最後に「杉山葬儀社」とあって、「あ、ゆりかごから墓場まで、『杉山』で終わっちゃう、ここ(笑)」みたいなね。……すみません、なんか。本当にね、振り返ると運のいい人生を送ってきて。ただフォローしておくとお金はないですね(笑)。でも好きなことばっかりやっているから、まあ、いいや、みたいな。そんな日々ですね。(了)
              ( 取材・文、写真:plus編集部 イラスト:霜田あゆ美 図版:美創)

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杉山淳一

1967年、東京生まれ。都立日比谷高校、信州大学経済学部卒。PC系出版社に入社し、ゲーム雑誌の広告営業を経てフリーライターとなる。近所を走る東急池上線の踏切音を子守唄として育ち、小学生で「乗り鉄」に目覚めて東急電鉄を完乗。現在の踏破率は日本全国鉄道網の約90%で、廃止された路線を含め累計27467.9kmを踏破。著書に『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』、ゲーム『A列車で行こう』シリーズ公式ガイドブックなど。

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