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考えるとはどういうことか

2019.02.07 公開 ポスト

この社会には「語る自由」がない【リバイバル】梶谷真司

ⓒiStock.com/Valo Valp

東京大学教授・梶谷真司さんは、5~20人ぐらいが輪になって座り、ひとつのテーマについて話し合う「哲学対話」を、学校や企業、地域コミュニティで実践してきました。哲学対話を行う際に梶谷さんが掲げているルールは8つ。そのルールは、哲学対話を知らない人・やったことがない人にとっても、多くの示唆に富み、とても大事なことに気づかせてくれます――。『考えるとはどういうことか――0歳から100歳までの哲学入門』からお届けします。

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至るところで働く「自由にものを言えなくさせる力」

一口に哲学対話と言っても、何に重点を置くか、何のために対話をするのかで、ルールも進行のしかたも違ってくるが、ここでは私がいつも掲げているルールをあげておこう。

 (1)何を言ってもいい。
 (2)人の言うことに対して否定的な態度をとらない。
 (3)発言せず、ただ聞いているだけでもいい。
 (4)お互いに問いかけるようにする。
 (5)知識ではなく、自分の経験にそくして話す。
 (6)話がまとまらなくてもいい。
 (7)意見が変わってもいい。
 (8)分からなくなってもいい。

これら8つの対話のルールのうちのいくつかは、他の話し合いやワークショップなどにもあるだろうし、はじめて見るものもあるだろう。だが、表面的に似ているように見えても、内実はかなり違っていて、これらが全体として 対話を哲学的な探究に変える。そこで以下、このルールの意味について説明しながら、哲学対話の特徴を詳しく見ていこう。

私が哲学対話でもっとも大切だと思っているのは、「自由に考えること」である。そうすることでこそ、対話は哲学的になると信じている。このことに比べれば、思考が論理的かどうか、首尾一貫しているかどうかなどは、さほど問題ではない。それは時に思考の幅を狭めてしまう。

ではどうすれば、思考は自由になるのか。

先に述べたように、哲学とは「問い、考え、語り、聞くこと」であるが、このうちとくに「問う」と「語る」からいかにして制約を取り払うかが重要である。私たちは自由に問い、語ることによって、はじめて自由に考えられるようになる。先の8つのルールは、すべてそのためにあると言っても過言ではない。

そこで最初のルールが、(1)の「何を言ってもいい」である。私たちは、何でも言っていいところでしか、自由にものを考えることはできない。

自由に考えるために特殊なルールに従わないといけないのは、矛盾していると思うかもしれない。しかし、日常生活の中で、私たちが何を言ってもいい場というのは、まったくと言っていいほど存在しない

もちろん何でもかんでも言いたい放題言っていいわけではない。そんなことをしていたら、世の中はメチャクチャになる――その場にふさわしいことを言う。発言には節度が必要で、言いたいことをむやみやたらに言ったりしない。話題にしろ言葉づかいにしろ、言うべきでないことはわきまえておかねばならない――程度の差こそあれ、これは社会の基本的なルールであり、それができるようになることが、社会性を身につけるということでもある。

だがそれでも、何を言ってもいい自由がないという事実には変わりない。世の中には、普通の状態では、自由にものを言えなくさせる力がいたるところで働いている。だから「何を言ってもいい」をはじめとする前述のような特殊なルールがなければ、そうした力を排除できず、考えるさいの自由は手に入れられないのだ。

関連書籍

梶谷真司『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門』

「考えることは大事」と言われるが、「考える方法」は誰も教えてくれない。ひとり頭の中だけでモヤモヤしていてもダメ。人と自由に問い、語り合うことで、考えは広く深くなる。その積み重ねが、息苦しい世間の常識、思い込みや不安・恐怖から、あなたを解放する――対話を通して哲学的思考を体験する試みとしていま注目の「哲学対話」。その実践から分かった、難しい知識の羅列ではない、考えることそのものとしての哲学とは?生きているかぎり、いつでも誰にでも必要な、まったく新しい哲学の誕生。

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考えるとはどういうことか

対話を通して哲学的思考を体験する試みとしていま注目の「哲学対話」。その実践からわかった、考えることの本質、生きているかぎり、いつでも誰にでも必要な哲学とは?

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梶谷真司

1966年、名古屋市生まれ。89年、京都大学文学部哲学科卒業。94年、京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程修了。97年、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了、京都大学博士(人間・環境学)。現在、東京大学大学院総合文化研究科教授。著書に『シュミッツ現象学の根本問題』(京都大学学術出版会)がある。

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