1冊でも多く本が売れるなら、やれることはやってみよう
──前回、「水の上にプカプカ浮かんで漂っている」という話がありましたが、本づくりのペースは性急な印象を覚えます。
編集者としての基本的な姿勢はプカプカですけど、もともとの性格はとてもせっかちなので。それに仕事をしていくなかで、タイミングはどうしても意識しますよ。人はどんどん年をとります。たとえば、自分が50歳になったとき、20代の人と喋っても、おそらくいまのようには話を引き出せないはず。相手が「この人、かなり年上だ!」と構えてしまうだろうし、こちらの感覚も若いときのままではいられませんから。たとえばサッカー選手多くは20代と30代ですから、そういう選手を相手に、密度の濃い話をして、いまのような本づくりができるかどうか。だからこそ、いまできることはしっかりやりきっておきたいなとは思ってます。
──お話ししていて、何かを選んだり、決断したりするのは早そうな印象を持ちました。
ああ、たしかに早いですね。メールボックスを常に空にしておきたいタイプです(笑) 。
──自分なりのやりかた、自分なりのペースを大事にする、プレーヤータイプの編集者とお見受けしたのですが、周囲からは後進にノウハウの継承を求められたりしませんか?
そのあたりのことは、最近の悩みのひとつです。僕自身は、常にプレーヤーとして現場にいたい、みたいな欲を持っています。とはいえ、年齢的にも立場的にも、マネージャー的なこともやらなきゃいけないんだろうなぁ……みたいな責任も意識し始めてはいるんです。
よく「仕事を任せるようにしないといけない」と言われますが、編集はそれもなかなか難しい仕事と思います。それに、たとえば“○○選手にどういう言い回しで質問を投げかけたらいいか”とか、“取材の進め方、相手との関係のつくり方のコツ”とか、細かいところでは“スタジオにどんな食べ物や飲み物を置いておくか”など、煎じ詰めてしまえば、その人間のセンス次第ですからね。自分も、もちろん甘いところはたくさんありますが、そういうのって、簡単に伝えられるものではないですよ。
──そうした職人的な一面もありながら、妙に冷静で、我を感じさせない、飄々としたところもお持ちですよね。
我は邪魔なだけですよね。仕事を上手く進めるためだったら、いくらでも我なんて捨てます(笑)。僕は3年くらい前から幻冬舎の編集者としてツイッターなどのSNSをやっていますが、始めるときにも迷いました。本をつくっている側の人間が出るのは、果たしてどうなのかなと。裏方であるはずの人間がうっすらと見えてしまうのは、読者にとって邪魔なときもあるかなとも思うんです。
ただまあ、なかなか本が売れないご時世ですし、これからは編集者もどんどん前に出ていって、「この人が編集した本だから買ってみよう」と思わせるくらいにならないといけないのかなと。基本的に、編集者は裏方だと強く思いますが、「1冊でも多く本が売れるなら、やれることはやってみよう」という意識も、いまの時代の編集者には必要なのかもしれません。
(構成:漆原直行 撮影:菊岡俊子)
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