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過敏で傷つきやすい人たち

2019.02.12 公開 ポスト

幸福感を高めて、過敏性と上手に付き合っていく岡田尊司

音や話し声がすると集中できない、人にどう思われているか気になる、過度に接近されるのが苦手、頭痛や胃痛、下痢になりやすい…。こんなお悩みを持っている人は少なくありません。続々と重版を重ねている精神科医・岡田尊司さんのベストセラー『過敏で傷つきやすい人たち』は、そんな悩みを解決できると話題の一冊。そんな本書の中から、一部を抜粋してお届けします。

(写真:iStock.com/miya227)

親切にするエクササイズで人間力が高まる

幸福な人ほど、人に対して親切であるということが研究でも裏付けられています。親切と幸福が結びついているのなら、親切な行動を増やすことで幸福度を高めたり、悲観的で傷つきやすい気持ちを改善することはできないのでしょうか。

ダンら三人の研究者は、このことを確かめるために、ある実験をしました。五ドルまたは二十ドルを実験の参加者に与えて、それを自分に使ってもいいし、人のために使ってもいいと伝えたのです。その結果は興味深いものでした。もらったお金を自分のために使った人よりも、他人のために使った人の方が、大きな幸福感を味わえたのです。面白いことに、金額と幸福感の大きさは関係なかったそうです。

親切な行為も、同じことを繰り返すよりも中身を変えて新鮮味をもたせた方が幸福感を高める効果があり、小さな親切を毎日やるよりも一度に固めてやった方が、多く高揚感が得られるという研究結果も出ています。

そうなると、親切は他人のためだけでなく、その人自身のためでもあるということになるでしょう。いずれにしても、親切には、それをされた相手だけでなく、それをした本人も幸福になれる作用があるということです。

親切な行為が過敏な傾向を和らげるかどうかについては、今のところデータがありませんが、幸福感と過敏さが中等度の負の相関を示すことから、過敏さに対する効果も期待されます。

親切と過敏さがどう結びつくのかと、腑に落ちない方もいらっしゃるでしょうが、その二つは結びついても何ら不思議はないのです。

親切は、優しさと言い換えることもできるでしょう。どちらも他人のために行動することであり、また温かい気持ちを伴っているという点でも共通します。

そして、優しさに関与するのがオキシトシンという愛着ホルモンです。優しく世話をするときだけでなく、優しい気持ちで人と接したり、笑顔をかわすときでさえも、オキシトシンが分泌されるのです。オキシトシンには、抗ストレス作用や抗不安作用があり、過敏さを和らげてくれます。虐待された子どもが過敏な理由は、恐怖の体験によるトラウマのためでもありますが、安定した愛着が育まれないことでオキシトシン系の働きが悪いため安心感がもてないということにも起因しています。

そう考えると、人に親切にして優しい気持ちになることによってストレスや不安が減り、過敏さも和らいだとしても不思議はないのです。

優しくなりなさいと言われると抵抗がある人もいるでしょうが、親切にしなさいと言われれば受け入れやすいかもしれません。しかも、情けは人のためではなく、自分自身にも返ってくるのです。

家族に優しくすることには抵抗がある人も、親切にするのだと割り切れば、ハードルが低くなるかもしれません。そして、他人に親切にする以上に、家族に親切にすることには大きなメリットがあるのです。

(写真:iStock.com/Hakase_)

感謝するエクササイズで感謝力を高めよう!

感謝することも、物事の良い面を見ることで幸福感を高め、ストレスを減らし、免疫力を高めることが知られています。実際、長寿の人は、不満よりも感謝を口にする傾向があると報告されています。

ある研究では、参加者に感謝していることを五つ挙げてもらうという課題に、週に一度ずつ十週間、もしくは毎日の頻度で二、三週間、取り組んでもらいました。その結果、感謝する取り組みに参加した人は、参加しなかった人に比べて幸福度が高く、身体的症状が少なく、健康的な行動が増える傾向を示したということです。感謝する習慣を作るだけで、大きな変化が生まれたのです。

別の研究では、同様の課題に取り組んだだけで気分が高まり、よく眠れるようになり、人との絆が強まったと感じられるといった効果を認めています。

感謝する傾向が強い人が幸福感を維持しやすいと考えられているのは、そうした人では快楽順応が起きにくいということによります。快楽順応は、何か喜ばしいことも、それに馴れっこになると、最初ほど喜びを感じなくなってしまう現象です。

感謝する傾向が乏しい人では、恵まれた境遇でも、不満だらけに感じてしまいがちなのです。しかし、そういう心のもちようが、気分だけでなく健康にまで影響するとしたら、是非とも感謝できる気持ちをもちたいものです。

興味深いことに、こうしたエクササイズに週一度だけ取り組んだ場合と、週に三回取り組んだ場合を比べると、週一度の方が気分や幸福度の改善には効果的だったという結果が出ています。そんなにしょっちゅう取り組んだのでは、やらされ感が強まり、課題の新鮮さも薄れてしまうのでしょうか。

クリスチャンが週に一度教会で祈りを捧ささげ、主に感謝するという習慣を長年維持してきたのは、もちろん信仰心ゆえでしょうが、そこから大きな恩恵が得られるという面があったのかもしれません。

クリスチャンでなくても、そうした知恵を生活に取り入れることは大切なことだと思います。週に一度、生活を振り返りながら、人からしてもらった良いことを思い出し、それに感謝することは、傷つきやすさや生きづらさを和らげ幸福感を高めてくれるに違いありません。

ただし、感謝するという課題の効果は、その人の身の入れ方によって大きく違ってしまったということも報告されています。それらの研究によると、感謝の手紙を書くという課題に取り組んでもらったのですが、効果が認められたのは熱心に課題に取り組んだ人だけで、また幸せになりたいという気持ちが強い人ほど効果がみられたということです。そうした人では、高い効果が現れるだけでなく、長続きしやすく、半年後も幸福感が高まった状態が認められたということです。

関連書籍

岡田尊司『過敏で傷つきやすい人たち』

決して少数派ではない「敏感すぎる(HSP)」人。実は「大きな音や騒々しい場所が苦手」「話し声がすると集中できない」「人から言われる言葉に傷つきやすい」「頭痛や下痢になりやすい」などは、単なる性格や体質の問題ではないのだ。この傾向は生きづらさを生むだけでなく、人付き合いや会社勤めを困難にすることも。最新研究が示す過敏性の正体とは? 豊富な臨床的知見と具体的事例を通して、HSPの真実と克服法を解き明かす。過敏な人が、幸福で充実した人生を送るためのヒントを満載。

高田明和『脳科学医が教える他人に敏感すぎる人がラクに生きる方法』

私も80年間、HSP(Highly Sensitive Person)に苦しみました。気にしすぎ、真に受けすぎ、人の顔色をうかがいすぎ。 うつ病でもない、性格でもない、今話題のHSPがよくわかる、生きづらさを解消する処方箋。

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過敏で傷つきやすい人たち

決して少数派ではない「敏感すぎる人(HSP)」。
実は「大きな音や騒々しい場所が苦手」「話し声がすると集中できない」「人から言われる言葉に傷つきやすい」
「ストレスで胃が痛くなりやすい」「頭痛や下痢になりやすい」などは、単なる性格や体質の問題ではないのだ。

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岡田尊司

1960年、香川県生まれ。精神科医、医学博士。東京大学哲学科中退。京都大学医学部卒。同大学院高次脳科学講座神経生物学教室、脳病態生理学講座精神医 学教室にて研究に従事。現在、京都医療少年院勤務、山形大学客員教授。パーソナリティ障害治療の最前線に立ち、臨床医として若者の心の危機に向かい合う。 

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