大きい夢は小さくできるが小さい夢は大きくできない
出口 あと、思うのは、副社長の津崎宏一さんとの組み合わせがいいですよね。山根さんは、明るくて周りを引っ張って行くタイプで、津崎さんは数字の面で管理をきっちり管理される方なので、いいコンビだと思います。
もうひとつ感心したのは、山根さんが社長になってから、先代社長のときから働いていた役員全員に辞めてもらったことです。
山根 はい。本にも書きましたが、僕が社長に就任した当初は、役員たちが個人的な感情でいがみ合っていて、社内の雰囲気は最悪でした。だから、社内の膿をすべて出し切るために、長年いた役員を再任しませんでした。その結果、彼らの取り巻きも辞めていったので、父が社長をしていたころのベテラン勢は少なくなりました。
出口 それまでは経験や勘で成り立っていた体制を変えたわけですよね。もちろん、そういう部分も大事ですが、僕から見ると、山根さんが今取り組んでおられるのは、業界のことをよく知っている人の勘に頼った経営を、近代的な経営に変えるプロセスだと思いますね。
ベテランが抜けた穴は、顧問という形で、それぞれしっかりした方を呼んできてフォローしているので、バランス感覚も素晴らしいと思います。
山根 僕は社長を5年間やってみてですね、ちょっと哲学的なことを言うんですが、「経験とか勘が役に立たないということが経験でわかった」というか。マーケティングの数字とか、過去の相場というものは、過去の集積の平均値でしかないので、それでは未来を語れないと思ってます。
出口 ただ、あえて小言を言うとすれば、売上目標は1000億円だと言ってましたよね? 35歳の若さで目標1000億円は、小さすぎです(笑)
山根 10年後は1000億円ですね。一応、30年後は1兆円を目標にしています。
出口 でも、10年後の1000億円よりも、30年後の1兆円を言っていくほうがいいんじゃないですか? まだ若いんですから、それくらいの話をしないと。
そういえばこの前、面白いことがありました。30代、40代の企業の中堅幹部に、ちょっとしゃべってくれと言われて話をしたのですが、質疑の時間になったら、「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)が勝手なことをやっている。ヨーロッパはちゃんと規制しているんだから、日本政府もちゃんと規制してほしい」と言う若い人がいたんですね。で、君、何歳やと聞いたら、34歳ですと。
いや、発想間違ってるでと。Facebookは、14年でトヨタの2倍になったんだから、政府に規制してもらおうなんてアホなこと考えずに、50歳までにFacebookの2倍くらいの会社を作って、あいつらをこてんぱんにやっつけますと、なんで言わへんねんと。そうしたら下向いてましたが(笑)
大きい夢はいくらでも小さくできるけれど、小さい夢は大きくできないですからね。
山根 そうですね。1兆円企業になったサンワカンパニーの成長を出口さんにも見届けていただきたいです。
出口 いや、そこまで生きているかどうか(笑)
もちろん見届けたいという気持ちはありますよ。いろいろなチャレンジをして、ちゃんと夢も持っていらっしゃいますからね。これから面白くなると思います。
正しいことをして我慢さえできれば、結果はついてくる
出口 サンワカンパニーさんは、今はまだ脱皮の苦しみのプロセスだと思っています。仕事って、大体が我慢ですから。
営業キャッシュフローがきちんと回っていて、何か不測の事態に陥ったり売上が急減したりさえしなければ、あとは我慢をしていれば、必ずビジネスってうまくいくんですよ。
この前、中学2年生にベンチャーの仕事を教えていて議論をしたのですが、「ベンチャーとかビジネスが成功する理由って何だと思う?」と、女子生徒に聞いたら、答えに感動しました。「先生、やりたいことをやっているんですよね。そうしたら、成功するまでやり続けたら成功するじゃないですか」と。
その通りだと思います。だから、1期毎の業績にピリピリする必要はない。やっていることが正しければ、結果はついてくると思います。
山根 僕らは何回も脱皮するつもりなんですけど、最初の脱皮の時期が終わるのは、東証一部の鐘を鳴らした日だと思っています。
東証一部にいくと、いわゆる大企業になったというイメージがありますけど、僕らは、それがこれから蝶になって羽ばたいていく出発点だと考えています。本当のチャレンジが始まるのは、そこからです。
(構成 森本裕美)
〈了〉