雅子さまの病気は、戦争のような生存の危機を体験していない世代が、生きる意味を見失って苦しむ「実存のうつ」だったと、精神科医の斎藤環さん。では、新しい時代の天皇皇后両陛下にとっての実存となりうるテーマは何なのか? そして、新しい天皇皇后両陛下への大胆な提案とは? 斎藤環さんと『美智子さまという奇跡』著者のコラムニスト・矢部万紀子さんの対談、後編です。
* * *
「研鑽」に努めてしまう、まじめなお二人
矢部 拙著『美智子さまという奇跡』にも書きましたが、両陛下が戦争をテーマとされる切実さが、皇太子ご夫妻にはないのです。そうなると、新しい時代の天皇皇后は、何をテーマとするのか。それが実存となるわけですよね。
斎藤 平和への願いは変わらないでしょうが。切実さで言うと、やはり被災地へのお見舞いでしょうか。
矢部 それだけを引き継ぐとなると……。
斎藤 ですが、格差問題などと言うと政治になってしまう。(皇太子が長くテーマにしている)水問題も、水道民営化という話になれば政治になってしまう。
矢部 広く環境問題ととらえることもできますが、そうなると「原発は?」といったことも出てきて、やはり政治に近づいてしまいますね。雅子さまについて言えば、皇后という地位についたら元気になって、ハッピーになるという見方をする人もいます。
斎藤 実存は中身であって、地位では埋められないんですよ。やはり何を自分のテーマとするか。
矢部 被災地に行き、涙を流して喜んでくれる国民がいれば、それは来てよかったと思いますよね。
斎藤 それは思うでしょう。ただ、彼女のポテンシャルを生かし切る場面ではないですよね。そこをどうするか?
矢部 彼女が望んだ皇室外交も、やはり難しい状況は変わらないと思います。そもそも皇室は行きたくて外国に行くのではない、招かれて行くのだと言う人もいます。
斎藤 確かに、行くからには大義名分が必要ですよね。そうなると翻訳ですか。フランス語も自在でしょうから。
矢部 日本語を英語にするのも得意でいらっしゃる。ただそういうことも、体力、気力がそろわないといけないでしょうが。
斎藤 やり甲斐を感じれば、かなり頑張れると思うんです。人が健康になるのは、やはり自分が持っている能力を生かしている時だと私は思っているんで。
矢部 雅子さまが完全に回復される日は、来るのでしょうか?
斎藤 心の病の場合、先に回復と言える状況になってからでないと、回復とは言えないんです。公務を全部こなしました、宮中祭祀も完璧です。そういう状況になれば、ご回復と言えるかもしれません。体の病と違って心の病は、はい回復しました、今日からなんでもやってください、とはならないんです。
矢部 となると、少しずつ公務や祭祀の数を増やしていくしかないのですね。何かゴールのない旅のように感じます。私なら嫌になってしまいますが、皇太子ご夫妻はすごくまじめなんですよ。雅子さまは2018年12月、2019年2月が皇太子さまとお誕生日を迎えられ、文書と記者会見で所感を公表されましたが、共通する言葉が「研鑽」でした。研鑽に努める、と二人ともおっしゃって。
斎藤 皇室を「研鑽しなくていい方向に変えます」と言えばいいのに。
矢部 むしろ逆で、天皇と皇后を見習ってますます頑張ります、だと思います。
次のページ:天皇の存在感を希薄にするという戦略