天皇の存在感を希薄にするという戦略
斎藤 僕は現在の天皇がすごいと思うのは、時間をかけて天皇の影を薄くしたことだと思うんですよね。昭和天皇は女子高生に「かわいい」とか言われるほどキャラが立っていて、それだけ存在感がありました。それに比べると、今の若い世代は天皇のことをあまり知らない。ある意味、天皇というものを意識しなくても生きていける社会になったわけです。これは天皇の意図的な戦略と僕はとらえていて、すごいなと思っています。
矢部 安倍政権になって以来、「今の日本で最大の護憲勢力は両陛下だ」という人もいて、存在感が増したのだと思っていました。
斎藤 発言の中身は濃くなっているかもしれないですが、パブリックイメージとしての存在感は若い世代の受容から見ても、薄れていると思います。
矢部 退位ということを自ら言い出され、注目度は上がりましたが。
斎藤 それもフェイドアウトしますという宣言ですから、すごいことだと思います。昭和天皇がみまかった時は、自粛の嵐になって、大変な行事があって。ご自身が疲れたというのもあったでしょうが、あの時のように国民全体を大騒ぎに巻き込まないという配慮だと思いました。そこを含めて、考え抜いていらっしゃるなと感じます。
矢部 「文藝春秋」座談会で、当時東大教授だった御厨貴さんが今の学生は「明治、大正、昭和」でなく、「明治、昭和」と言うと発言されて、驚かれていましたね。それから10年経ってますから、今の若い人は「天皇って何ですか?」という感じかもしれないですね。
斎藤 「どんな意味があるんですか?」というレベルだと思います。それは存在感を希薄にするという陛下の戦略の成功だと思うんです。
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