ことだま
一つ一つの言葉には、一つ一つの魂のような感覚があります。これが「ことだま」というものです。
一般的には、言葉に宿る霊と考えられていますが、そう考えるよりも、むしろ、言葉の機能として考えたほうがよいと思います。
たとえば、「あけましておめでとう」といいますが、新年になったばかりなので、まだその年がおめでたい年かどうかわかりません。前の年のほうがよい年だったという可能性もあります。しかし、年が明けたなら、まずそれを祝い、祝福するわけです。
「よい子だ、よい子だ、寝ん寝」といっても、赤ん坊はそんな言葉はわかりません。それでも、よい子だといえば、よい子になると声に出すわけです。
大和(やまと)は「ことだま」が祝福してくれる国だということを万葉ことばでは「大和は言霊(ことだま)の幸(さき)はふ国」と表現します。言葉による祝福が現実に、機能する国だということです。
こんな年賀状はいかがでしょうか。
「明けましておめでとうございます
大和は言霊の幸はふ国ですから
祝福などいらないのでしょうが
それでも幸多かれと祈るのが人間
だと思います」
(三二五四)
磯城島(しきしま)の 大和(やまと)の国は 言霊(だま)の
助(たす)くる国ぞ ま幸(さき)くありこそ
磯城島の 大和(やまと)の国は…… 言霊(ことだま)の
助け給(たま)う国 幸あれ──
「令和」の心がわかる万葉集のことば
万葉集の巻五から採られた新元号の「令和」。そこに込められた万葉ことばの心、おだやかな日を寿(ことほ)ぐ1300年前の先祖たちの思い……。8世紀のことばの文化財・万葉集に使われている「万葉ことば」(古き日本語)を学び、心を磨く日本語練習帳。
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