父がリハビリ病院に入院しているため、私は、今、自由が丘と静岡を行ったり来たりしている。
実家で洗濯物を干そうと、小走りで洗面所に向かうと、廊下の本棚の一番下の本に目が留まり、その本が何の本だったか思い出す前に、胸がキュッとした。
私が、小学生だった頃、ベッドに持ち込み、いつも読んでいた、「世界むかし話集」という分厚い本だ。
この真ん中くらいのページに、グリム童話の「お爺さんと孫」という話がある。この話を読んで、私がどのくらい悲しくなったことか。
昔、あるところに、おじいさんが、息子夫婦と孫と住んでいて、おじいさんは、年を取り身体が不自由になって、お嫁さんが出してくれたスープを口から垂らしてしまったり、お皿を落として割ったりしてしまう。それに怒ったお嫁さんが、おじいさんには、木でできた、清潔とは言えない器を出すようになり、しまいには、お爺さんだけ別にしてストーブの後ろで食べさせるようにした。お爺さんはそれがとても悲しく、涙を流しながらテーブルを見つめていた。
ある時、孫が木の切れ端を床に並べて、なにかやっている。それを見たお父さんが息子に「何をしているんだい」と訊いたら、「木のお皿を作っているんだ。ぼくが大きくなったら、お父さんとお母さんにこれで食べさせてあげるからね」と答えた。それを聞いたお父さんとお母さんは、ワッと泣き出し、それからは、お爺さんをテーブルに連れてきて、みんなそろって食事をするようになったという話だ。
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さすらいの自由が丘
激しい離婚劇を繰り広げた著者(現在、休戦中)がひとりで戻ってきた自由が丘。田舎者を魅了してやまない町・自由が丘。「衾(ふすま)駅」と内定していた駅名が直前で「自由ヶ丘」となったこの町は、おひとりさまにも優しいロハス空間なのか?自由が丘に“憑かれた”女の徒然日記――。