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忍者はすごかった

2019.08.13 公開 ポスト

忍者が克服すべき3つの病…「恐れ」「侮り」「考えすぎ」山田雄司

黒装束で素早く動き、手裏剣で敵を撃退する……。「忍者」についてそんなイメージを持っていませんか? 実はこうしたイメージはすべてフィクションだったのです! 400年前の忍術書をひもとき、忍者の真の姿を浮かび上がらせたのが、忍者研究の第一人者、山田雄司氏の『忍者はすごかった』。現代を生きる私たちにも役立つ「忍者の教え」が満載のこの本より、一部を抜粋してご紹介します。

*   *   *

塀に塩水をかけ、腐らせてから忍び込む

忍びは命を全うして、其の事を遂ぐるを本意といえり。たとえ臆れを取りても、能く忍び入るを上手とは申すなり。

──『正忍記』

(忍びは命をまっとうして、任務を遂げることが本分である。たとえ後れをとったとしてもうまく忍び入ることを上手というのである)

(写真:iStock.com/slavazyryanov)

忍者にとって、迅速であることは重要ですが、もっと重要なのは確実に任務をこなすことです。

忍びは、忍び込むためにさまざまな手法を駆使します。例えば、塀が高くて、鉤縄を使っても乗り越えられそうにない場合はどうするか。そのときは、下にトンネルを掘って忍び込むということもありました。

この場合、近くから穴を掘っていたら見つかってしまうので、遠くから掘る必要があることから、任務を遂行するまでに数か月を要したでしょう。

また、木塀の場合には、毎日塩水をかけ、少しずつ色が変わっていけば、そこを管理する人は自然の変化だと思って不思議に感じないので、腐食がある程度まで達すれば、のこぎりなど使わずに容易に壊して侵入できると書かれています。これなども目的を遂げるためには長い時間が必要です。

忍者というと、主君から命じられたら素早く仕事をこなすイメージがあり、もちろんそのような場合もありますが、命令から長い時間をかけて行動を実行に移す場合もありました。

「急いては事をし損じる」ということわざもあるように、功を焦ってスピードばかり求めてはいけません。たとえ遅くなっても、命をかけて任務をしっかりこなすことが大事だと書かれています。

「忍術の三病」は恐れ、侮り、考えすぎ

忍術の三病は、一に恐怖、二に敵を軽んず、三に思案過ごす。この三つを去りて、電光のごとく入る事速やかなり。

──『万川集海』

(忍術の三病とは、一に恐れ、二に侮り、三に考えすぎである。この三つを取り除けば、電光のごとく速やかに侵入することができる)

(写真:iStock.com/Yuji_Karaki)

「忍術の三病」と呼ばれるものです。この記述に続き以下のことを記しています。

第一に、敵を恐れることにより心が萎縮し、動揺して取り乱し、日頃習って工夫したことも忘れてしまい、手足が震え、顔色が変わり、あるいは話し方が尋常でないことによって見とがめられて、見つかってしまう。

第二に、敵を軽んじ相手を愚かに思うことによって、陰謀が浅くなってしまう。浮ついたやり方によって事を仕損じることがあるものである。

第三に、あまりに大切に考えすぎ、よけいなことまで考えると、疑わなくてよいことまで疑うようになってかえって危険が多くなってしまい、意思が決定できず、しばしば迷いが生じて失敗することがあるのである。

ゆえに三病を取り除くことで、謀計を深くし、その機に臨んで速やかに侵入することができる。恐れず臆病心をもたなければ、電光のように侵入できるものである。

『六韜』には、「三軍の災いは狐疑より生ず」(狐のように疑い深いと、逃げようと迷っているうちに捕らえられてしまうことから、決断力がないと全軍潰滅してしまうの意)とある。

『義盛百首』には、次のように歌われている。

得たるぞと思い切りつつ忍びなば 誠はなくと勝は有るべし

(「やってやる」と思い切って忍びをすれば、誠はなくても勝利することができる)

以上が『万川集海』の記述ですが、これらに共通しているのは、事を起こす前に怖じ気づいてしまい、何もできなくなってしまわないように戒めている点です。

何も準備せずに実行することはもちろん避けなければなりませんが、どうしたらよいかとあれこれ考えてしまい、最悪のことばかり想定すると行動に移せなくなってしまいます。ある程度まで準備したら、後は思い切って行動に移すことも必要です。

『義盛百首』には、次のような歌もあります。

武士はあやぶみなきぞよかるべし まへうたがひはおくびょうのわざ

(武士たる者、危険だと思わない方がよい。事を起こす前から心配に思うのは臆病のなすわざである)

戦前、アメリカに移住した日系人移民たちがよく用いた言葉に、Go for Broke!(当たって砕けろ)というものがあります。

日系二世のアメリカ人によって構成された第442連隊戦闘団は、第二次世界大戦の際にヨーロッパ戦線に投入されて勇敢に戦い、アメリカ合衆国史上で最も多くの勲章を受けた部隊として知られています。そのときの合言葉が Go for Broke! でした。

危険と直面している忍びにとって、重要なのは恐怖心を打ち消すことであり、それによって初めて多くの困難を克服することが可能となりました。

未知の領域に突入するときには、さまざまな不安が伴います。しかし、それを乗り越えてこそ新たな世界を切り拓いていくことが可能となるのです。

関連書籍

山田雄司『忍者はすごかった 忍術書81の謎を解く』

黒装束で素早く動き、手裏剣で敵を撃退する……忍者に対するそんなイメージは、すべてフィクションだった!「忍者」という呼び名自体が昭和30年代に小説などを通じて定着したもので、歴史的には「忍び」と呼ばれた。 最も大事な使命は、敵方の情報を主君に伝えるため必ず生きて帰ること。 敵城に忍び込んで情報を得ることはもちろん、日中は僧侶や旅人に化けて話を聞き出していた。「酒、淫乱、博打で敵を利用せよ」「人の心の縛り方」など忍術書の81の教えから、忍者の本当の姿を克明に浮かび上がらせる。

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山田雄司

1967年、静岡県生まれ。京都大学文学部史学科卒業。亀岡市史編さん室を経て、筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科史学専攻(日本文化研究学際カリキュラム)修了。博士(学術)。現在、三重大学人文学部教授。著書に『怨霊とは何か』(中公新書)、『忍者の歴史』(角川選書)などがある。

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