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上野千鶴子×國分功一郎対談「上野先生、民主主義はお好きですか?」

2014.02.07 公開 ポスト

最終回

政治参加の正しい方法って何ですか?上野千鶴子/國分功一郎

◆傍観者をやめ、当事者に「なる」

男性2 國分さんのツイッターで、今日(2013年12月4日)こんな発言がありました。「こういうことをしているとどうなるか。政治秩序を最終審級において支えている、あの力がどこからか出てくる可能性がある。普段は『仕方なくルールを守る』という形でそれが出現することが妨げられているのに、それが守れなくなるわけだから。本当に恐ろしい」。

 今まさに秘密保護法案が採決されそうになっていて、上野先生がお嫌いな議会制民主主義さえもう守られないという状況になっている。そこで國分さんのおっしゃる、「政治審級を支えるあの力」というのは何なのかお聞きしたいと思います。またそれがどういうかたちで現れてくるかをお聞かせ願えたらと思います。

國分 それは簡単で、暴力のことです。政治秩序を支えているのは、最終的には暴力ですから、今までは守られていた秩序の決まり事や建前が守られなくなると、暴力が出てくる可能性がある。一般に、政権についている与党にも、もちろん、これ以上やるとマズイだろうというリミットがいろいろあるわけですよね。そういうものを見極めながら、政権運営していくわけです。ところが、今の政府は、素知らぬ顔をしていれば、どんなことをやっても数の力で押し通せるっていう感じになってきている。

 たとえば、昨年夏の参院選は一票の格差があるから違憲だったという判決が、各地の地裁で出ているわけですよね。そうしたら、ごく常識的な判断から言えば、その参院に重要法案の決定をさせるっていうことはやっぱりおかしい。裁判の最終結論が出るまで、置いておくとかとすべき。

 あるいは、「反対する世論がここまで盛り上がっているんだったら、その言い分をちょっと聞いておかないと、次に何かヤバいことが起こるかもしれないから、今国会での成立はあきらめよう」とか、昔の自民党のおじいさんだったらそう判断したと思うんですよ。だけど今はそういうことを教える派閥の教育機能なんかも失われている。

 今日はまだ秘密保護法案を採決してないですよね。もし今日採決するなんていうことがあったら、ちょっと何が起こるかわからない。反対派の一部が暴徒化すると、権力がその機に乗じて暴力を使ってきますから、そうするとまた反対派の暴力はエスカレートする。僕はこれをいま非常に恐れています。

上野 おっしゃるとおりですね。民主主義を含めて政治というのは、非常に危ういバランスの上にかろうじて暴力を抑えているところがある。コントロールできなくなるのは、民衆の側よりもむしろ権力の側の暴力です。秘密保護法案というのは、知らないで犯してしまった罪でいつ牢屋にぶち込まれるかわからないという法律だから、この国が収容所列島になりかねない。暴力の問題は、政治の背後にいつでも不気味に控えているので、民主主義と暴力の問題を考えることは非常に重要です。

國分 秩序って、ほんとに簡単に壊れるんですよ。僕はパリでデモ隊が暴徒化するのを何度も見ました。アパートから外を見下ろすと、下に止まってる車を高校生が平気でボコボコにしたりしてるんですよ。

 フランスはそういうことに慣れているけれども、日本は慣れてないから、そういうことが1回起こると、どう広がっていくかわからないですよね。それが怖い。

上野 秩序は簡単に壊れるとおっしゃいますが、私はもっと恐ろしいことを考えます。秩序自体が暴力で維持されているという事実があります。

國分 もちろんそうです。だから、みんながなんとなく建前を維持することで、暴力の発動を回避しているわけですけど、ここまで建前を無視するようなことを政治の側、統治している側がやり続けると、ちょっと恐ろしいなと思います。

上野 暗くて深い結論になってしまった。どうすればいいでしょう(会場、笑)。まあ、こういう風雲急を告げる切迫した事態に私たちがいる、と自覚していただくということでいいんじゃないですか。

國分 はい、そうですね。

上野 皆さん方に当事者になってもらわなくちゃ。傍観者でいてもらっちゃ困るよね、っていう結論でいいのよね?

國分 はい。僕は聖書のなかの「善きサマリア人のたとえ」というエピソードが好きなんです。あの話ではイエスが最後に、「サマリア人の隣人となった者は誰か?」と聞くんですよ。「誰がサマリア人の隣人であるか」と聞くんじゃなくて、「誰がなったか」と聞く。当事者というのは、やっぱり「である」ものじゃなくて、「なる」ものだと思います。
 今日はありがとうございました。(了)

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(構成 長山清子)

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上野千鶴子

社会学者・立命館大学特別招聘教授・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了、平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門は女性学、ジェンダー研究。『上野千鶴子が文学を社会学する』、『差異の政治学』、『おひとりさまの老後』、『女ぎらい』、『不惑のフェミニズム』、『ケアの社会学』、『女たちのサバイバル作戦』、『上野千鶴子の選憲論』、『発情装置 新版』、『上野千鶴子のサバイバル語録』など著書多数。

國分功一郎

1974年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・教養学部准教授。専門は哲学・現代思想。著書に『スピノザの方法』(みすず書房)、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社、第2回紀伊國屋じんぶん大賞受賞、増補新版:太田出版)、『ドゥルーズの哲学原理』(岩波現代全書)、『来るべき民主主義』(幻冬舎新書)、『近代政治哲学』(ちくま新書)、『中動態の世界』(医学書院、第16回小林秀雄賞受賞)、『原子力時代における哲学』(晶文社)、『はじめてのスピノザ』(講談社現代新書)など。訳書に、ジャック・デリダ『マルクスと息子たち』(岩波書店)、ジル・ドゥルーズ『カントの批判哲学』(ちくま学芸文庫)など。

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