満員電車に乗るだけでクタクタ、1人になるとどっと疲れが出て回復しない、週末はひたすら寝て終わってしまう……。その疲れ、もしかすると脳の「人疲れ」かもしれません! 脳と疲労の専門家、梶本修身先生の『“人疲れ”が嫌いな脳』は、しつこい疲れをリセットするヒントを集めた、忙しい現代人にぴったりの一冊。本書に収録された33の方法の中から、厳選していくつかご紹介します。
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「愛情」は長く続かない
無理になれなれしく相手との距離を縮めようとすると、逆に警戒感を持たれてしまいます。そこで、楽に自然に距離を縮める方法が、「愛着」という心理状態を共有することです。
「愛着」とはどういうことか。
「愛情」との対比で考えるとイメージが湧きやすいと思います。
「愛情」、つまりセックスをともなうような愛し合う感情は、長くは続きません。それは動物ではほとんど共通していて、だいたい3年以内とされています。
そう断言してしまうと、「そんなはずはない!」と怒り出す人がいるかもしれません。その一方で、「……そうか。なるほど」と納得する人も少なくないのではないでしょうか。
これは、自分の子孫を残すための生物学的な戦略です。
つまり、同じ遺伝子を持った子どもばかりだと、環境が変化したときに全滅するリスクがある。子どもをつくるたびに違う種類の遺伝子を取り入れるようにしておいたほうが、自分の遺伝子が残りやすいのです。
たとえば飢餓に強い子ども、伝染病に強い子ども、あるいは戦いに強い子どもなど、違う遺伝子を持っていたほうが生き残る確率が高くなります。となると毎年、繁殖期ごとにパートナーを替えるほうがいいわけです。
ただ、人間の場合は子どもが成長するまで、14年ほどかかります。その間にパートナーを替えてしまうと、子どもが殺される危険があります。それを避け、子どもが独り立ちするまで育てるための契約として、結婚という制度が生まれたのです。
しかし生物学的には、多様な遺伝子を残したいわけですから、やはり愛情は長く続かないのが前提になっています。
「愛着」を共有できる関係を
一方、人間には、子どもを育てている間、パートナーを替えずにいられるように「愛着」が備わっています。愛着は非常に深い絆を持つものなので、人間にとっては、ほかの動物が有する繁殖のための愛情よりも重要であるとも考えられます。
私自身、娘にもよく「愛情の強い人よりも愛着の強い人を探しなさい」と言っています。愛情は冷めることがあっても、愛着の強い相手とはずっとつきあえるからです。
実際、アメリカ人の典型的な夫婦は、ラブラブでベッドも一緒、外出時には手をつないで歩くのが一般的ですが、そんな愛情派のアメリカ人夫婦のほうが、日本人夫婦より圧倒的に離婚率が高いのは紛れもない事実です。
愛情が「子どもをつくりたい」という感情なら、愛着は「いなくなると寂しい」という感情です。「恋人」や「愛人」ではなくて、「家族」に対する気持ちと言えるでしょう。
人間のメンタルがもっとも安定するのは、相手との距離がいかなる場合も変わらない関係であり、それこそが愛着のある関係なのです。
なかには「家族といるのがストレス」という人もいるかもしれませんが、一般的には、家族と一緒にいるときは、余計な気を遣うことはありません。
たとえば、新幹線で隣の席に座っているのがつきあって間もない恋人だったら、東京から新大阪までの間、ぶすっとして黙り込んでいるだけで気になるでしょう。でも家族なら、会話がなくても気にならないものです。
もしそれが個室だったら……と想像すると、「家族」「恋人」「他人」の違いはもっと顕著になります。
家族だからといって、遠慮もストレスもまったくないとは言えないでしょうが、少なくとも見ず知らずの人と一緒にいるよりは安心できるし、楽なはずです。
つまり、少しでも愛着を共有できるような関係になることが、人間関係でストレスを減らすもっともいい方法と言えるのです。