満員電車に乗るだけでクタクタ、1人になるとどっと疲れが出て回復しない、週末はひたすら寝て終わってしまう……。その疲れ、もしかすると脳の「人疲れ」かもしれません! 脳と疲労の専門家、梶本修身先生の『“人疲れ”が嫌いな脳』は、しつこい疲れをリセットするヒントを集めた、忙しい現代人にぴったりの一冊。本書に収録された33の方法の中から、厳選していくつかご紹介します。
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体験を「感情」で分類する
日常的にワーキングメモリをトレーニングする方法として、「心の記憶フォルダ」を意識する方法があります。
※ワーキングメモリとは、リアルタイムで入ってくる情報(短期記憶)を受け入れながら、過去の記憶、学習、理解など(長期記憶)と結びつけて、複数のことを同時に行ったり、考えたりを可能にしている脳の働きのことです。
たとえば、こんな体験をしたと仮定してみましょう。
映画『シン・ゴジラ』を観にいったとき、「怖かったね。すごかったね」と口々に話しながら出てきた観客の中に、一人だけ目を真っ赤にして泣いている中年女性がいたとします。
『シン・ゴジラ』は大人の観客が納得できる怪獣映画ですが、そうやって泣くような映画ではありません。
なんで泣いているのかわからないけれど、あまりに異様だったので「変わってるわあ、あのおばちゃん」という印象が残ったとして、そのおばちゃんのことも含めて「映画」とか「映画館」の記憶フォルダに入れるのが、一般的な記憶の仕方です。
映画の話題になったときに、「そういえば、この前『シン・ゴジラ』を観にいってね」という話の中で、異様だったおばちゃんについて触れることになるかもしれません。
誰かが「映画」というキーワードで記憶フォルダを開けてくれると、ワーキングメモリが記憶を引き出し、『シン・ゴジラ』や「おばちゃんの話」が出せるわけです。
このとき、コミュニケーションの達人は、おばちゃんの印象を「なんじゃこりゃ」という、自分の感情に即したフォルダをつくって、そこに入れるのです。
「映画」フォルダには入れません。すなわち、記憶フォルダを「感情」によって分類しておくのです。
そうすると誰かが「奇妙な話」とか「不可解な話」を話題にしたとき、「なんじゃこりゃ」という感情のフォルダに入ったおばちゃんの話を、「そういえばこの前、映画館でね」と始められることになります。
「話が面白い人」とは?
相手にはどう聞こえるのか、考えてみましょう。
映画の話題が、たとえば「最近観た映画」とか「政治家や官僚の描かれている映画」「戦闘シーンのある映画」といったテーマであれば、『シン・ゴジラ』の話をするのは妥当です。
でも映画の話で盛り上がっているときに「おばちゃんの話」は脈絡がない。会話の中で、箸休め的な話題にはなるでしょうが、脈絡のない話で、盛り上がっていた会話に水を差してしまう可能性もあります。
一方、「奇妙な話」とか「不可解な話」がテーマのときは、「なんじゃこりゃ」という感情はぴったりはまります。一連の話題の中で「この前、映画館で」と話し始めれば、場の雰囲気を変えないで、話題をどんどんふくらませることができます。
話題が豊富でおもしろい人とは、話の腰を折ったり、水を差したりすることなく、ぴたりとはまる体験談を提供できる人でしょう。
そうするためには、感情で分類したフォルダが非常に有効になります。