「自分なりのめちゃくちゃいいキティちゃん」を目指す?
――自分としては会心の出来だと思う作品でも、世間の評価はそうでもないことってあります?
福留 よくあります。最近は逆に、ネットでのリアクションが少ないのがいい作品なんだって思うようになりました。
きくち なんで、なんで?
福留 いつも自分がいいと思うものはリアクションが少ないから。だから「あっ、いいの描けたって思ったときは、「はい、これはリアクション少ないぞ」と思って投稿する。すると、ほんとにリアクション少ないから、「ああ、やっぱりいい絵なんだな」と思う(笑)。そんなふうに気持ちのコントロールができるようになった。
きくち そういう読みができるんだったら、自分のいいと思うところと世の中がいいと思うところとを、もうちょっとうまい具合に取り入れることもできるんじゃない? 世間がいいと思う部分と自分がいいと思う部分を掛け合わせたら、すごくいいものができると思わん?
福留 そういう絵も描きますよ。でも完全にそっちに寄るというのは、やっぱプライドが邪魔して描けない。キティちゃんとか描けないじゃない。
きくち キティちゃんは描かないけどさ、自分なりの、めちゃくちゃいいキティちゃんを描くというのもあるじゃん。
――きくちさんは、自分なりにめちゃくちゃいいキティちゃんを目指すという気持ちがあるんですか。
きくち いや、僕もあんまりやらない(笑)。話を聞いていて、こういうやり方があるんじゃない? と思って言っただけで、僕も別に世間に寄せはしないです。
――きくちさんは、もうやっていけないとか、続けられないとか思うことはありませんか。
きくち 僕はあんまりないですね。たとえもうお金が稼げなくなって別の仕事をしたとしても、たぶん絵はやめないと思う。
福留 たとえばピザ屋とかで働いても。
きくち そう。でも、ほんとに絵がダメになったらどうしよう。
――でも、おふたりとも若いですしね。日本ってもう若者の数が少ないから、まだまだずっと活躍できる。
福留 めっちゃ出てきてますよ、天才たちが。僕らの時代よりもツールがたくさんあって、もっと作品を発表しやすくなっているから。
きくち 今の高校生はスマホもあるし、パソコンも一家に一台は絶対あるし、何でもできる環境がそろってますからね。加工ソフトだけで描いたみたいな絵にすごい人気が出てる人もいる。
福留 あと、なんちゃってみたいな、とりあえず描いて出すみたいな絵がバズってイラストレーターになる人もいる。油断したら終わりです。
お金はそんなに要らない。認められたい。
――おふたりはお金を儲けたいという気持ちはあるんですか。
きくち あったらあったでいいけど、とりあえず生活できる分を確保できればいい。
福留 壁と屋根があれば十分。お湯も出てほしいですね。
きくち いいね、お湯。
――でもそれとは別に、もっと売れたいとか、有名になりたいとかは?
福留 それはあります。
きくち 圧倒的にあります。いろいろな人に認められたい。
福留 富より名声。
――そうすると、今おっしゃったみたいに、ちょっとしたことでバズったり、売れたりする人に嫉妬することもありますか。
福留 まあ、ありますね。
きくち あるよね。でもその人が今まで築いてきたものの結果だと思っているから。
福留 そもそも自分の作風じゃそこまではいかないだろうという割り切りもあるし、自分のほうがいいものを描いてるという自負はあるので。
きくち 圧倒的肯定感だ(笑)。
――今後の目標などはありますか。
きくち 僕はやれるところまでやりたい。やっぱり「どうぶつーズ」を200回やると4コマもけっこうきつくなってくる。でも自分の軸であるものは、ずっとやり続けるのが大事だなと思っているので、やめるべきじゃないと思ってます。
福留 僕はこうなりたいとか、あんまりないですね。そもそも人生の目標もないし、目標を立てると可能性を失うこともある気がする。だからずっと変わらずにいることを目指します。
――ありがとうございました。すごく面白かったです。
きくち 全然面白いこと言えなかったのに。
福留 いつもの2割ぐらいだったね。やっぱり、ちょっと緊張しちゃったね。
(構成:長山清子 写真:菊岡俊子)