「悩みから逃げず、きちんと悩める人にだけ濃密な人生はやってくる」。そうおっしゃるのは、心理学者でカウンセラーの諸富祥彦先生。とはいえ、やみくもに悩めばいいわけではありません。「正しい悩み方」があるのです。著書『悩みぬく意味』は、その具体的方法を伝授してくれる本。いつも悩みがちなあなたにぜひ読んでいただきたい本書から、一部をご紹介します。
* * *
人生には必ず意味がある
フランクルは、ナチスの強制収容所から解放された後、何年もかけて自分の思想を著作にあらわし、世界中で講演し続けました。多くの人に、「どんな状況にあろうと、人生には意味がある」と説き続けていったのです。
中でも、重要な仕事の一つは、アメリカ合衆国のさまざまな州にある、死刑囚を収容している刑務所に行って、「あなたは今からでも自分の人生を意味あるものにすることができる」と説いて回ったことです。
「人生を意味あるものに変えるのに、遅すぎることはけっしてない。たとえもし、あなたが、明日、死刑になる殺人犯だとしても」
フランクルは死刑囚たちにそう語りかけていったのです。
「人生を意味あるものに変えるのに、遅すぎることはけっしてない」──この言葉は、もちろん、死刑囚にだけ当てはまるものではありません。
「私はこれまでの人生を何と無駄にすごしてきたことか」。そんな後悔の念を抱いているすべての人の心に、この言葉は届くはずです。
「人生が、その最後の一瞬までも、意味を持ち続ける」のは、「態度価値」が存在しているからだ、とフランクルは考えました。
その証として、フランクルが例としてあげるのが、ある広告デザイナーだった男性の話です。
フランクルが若いころ勤めていた病院でのことです。
そこに多忙な広告デザイナーだったある若い男性が入院していました。
悪性で手術もできない重篤の脊髄腫瘍をわずらっていた彼は、そのために手足が麻痺してしまい、デザイナーという仕事を断念せざるをえなくなりました。彼はこの時「創造価値」実現の可能性を断たれてしまったのです。
男性の死から学ぶべきこと
それでも彼は、めげません。毎日を少しでも意味あるものにしようと読書に励み、ラジオを聴き、ほかの患者との会話に熱中したのです。
ところが病の進行のために筋力が衰え、書物を手に取ることすらできなくなりました。さらには頭蓋骨の神経の痛みのため、ヘッドフォンの重さにさえ耐えることができなくなり、他の患者と話をすることもできなくなりました。この時、彼は「創造価値」に加えて「態度価値」を実現する可能性も断たれたのです。
しかし彼は、それでも次のような態度をとることで、自分の人生を意味あるものにしようとし続けました。
生命がおそらくあと数時間しかないことを知った彼は、ベッドの側を通りかかった当直医のフランクルを呼び寄せて、次のように伝えたというのです。
「午前中、病院長が回診した時にわかったのですが、私には、死ぬ数時間前になったら苦痛を和らげるためのモルヒネを打つように指示がくだされているようなんです。つまり私は、今夜で終わりだと思います。そこで、今のうちに注射を済ませておいてくださいませんか。そうすれば、あなたも私のためにわざわざ安眠を妨げられずにすむでしょうから」
フランクルは言います。
「彼は人生の最後の数時間さえ、まわりの人をいたわり気を配っている。どんな辛さや苦痛にも耐えた勇気はともかく、こうしたさりげない言葉、まわりの人を思いやるこの気持ちを見てほしい。まさに死の数時間前のことなのだ。ここには素晴らしい業績がある。職業上の業績ではなく、人間としての無比の業績が」
(『それでも人生にイエスと言う』)
私たちがまさに息を引き取るその時まで、人生から「問い」が発せられなくなることはありません。「さぁこの過酷な状況において、お前はどう振る舞うのか」と人生から問われ続けているのです。
悩みぬく意味
「悩みから逃げず、きちんと悩める人にだけ濃密な人生はやってくる」。そうおっしゃるのは、心理学者でカウンセラーの諸富祥彦先生。とはいえ、やみくもに悩めばいいわけではありません。「正しい悩み方」があるのです。著書『悩みぬく意味』は、その具体的方法を伝授してくれる本。いつも悩みがちなあなたにぜひ読んでいただきたい本書から、一部をご紹介します。