「悩みから逃げず、きちんと悩める人にだけ濃密な人生はやってくる」。そうおっしゃるのは、心理学者でカウンセラーの諸富祥彦先生。とはいえ、やみくもに悩めばいいわけではありません。「正しい悩み方」があるのです。著書『悩みぬく意味』は、その具体的方法を伝授してくれる本。いつも悩みがちなあなたにぜひ読んでいただきたい本書から、一部をご紹介します。
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自分を見つめない工夫
もっとも原初的な方法は、「スプリッティング」(分離・切断)です。
たとえば、「こんな私じゃ、だめ」「こんな私は、嫌い」という気持ちでいっぱいになりそうな時に、まずその気持ちを、可能な限り見ないようにするのです。
「ま、いいか」
「仕方ないか」
「できることをしていくしかない」
そんな言葉を自分の中でつぶやきながら、「自分の問題」や「自分を責めてしまう気持ち」などを(それと正面から向き合って、考えようなどとせず)、とりあえず自分から切り離して、脇に置いておく。とりあえず、自分から、切り離しておく。
そしてどんな小さなことでもいいので、「今、さしあたり、できること」をしていく。仕事でも、雑用でも、テレビでも、ネットサーフィンでもいいので、できるだけ何か単純な作業に意識を集中させておく。特にお勧めなのは、お皿を洗うとか、掃除をするとかの単純作業です。
「目の前の、やるべきこと」に意識を集中させることで、自分の中の「つらい気持ち」に意識が向かないようにして、つらい気持ちに押しつぶされそうな日々をしのぐのです。
しかし、まじめな方は、「でも、なんだかんだ言っても、やっぱり私が悪いんじゃ……?」と思ったり、「なんでもっとこうできなかったんだろう……」とまた考え始めてしまうかもしれません。
そんな時は、その「割り切れない気持ち」をまた、ちょっと自分から切り離すのです。そして、少し脇に置いておくようにしましょう。
「とりあえずは、ここに置いておこう」「しばらくは、見ないようにしよう」と、その気持ちや考えを自分から切り離し、「できるだけ、何も考えず」「とりあえず、今、できること」をやっていくようにするのです。
こう書くと、「それじゃ、自分から逃げていることにならないだろうか?」「やはり、どうしてそうなったか、自分を見つめることが必要なのでは?」と考える人もいるでしょう。
そうです。この場合は、じょうずに「自分から逃げる」ことが大切です。
「自分を過度に見つめ」たり「自分を過度に追いつめ」たりする習慣がついていることが問題なのです。その習慣をやめるためには、「逃げていい」し、むしろ、「逃げなくてはならない」──「自分から逃げる方法を学んでおく必要がある」のです。
フランクルの「脱内省」とは
これと似ているのですが、もう少し踏み込んだ方法が、フランクルが提案する「脱内省(dereflection)」です。従来は「反省除去」と訳されてきましたが、この語には、日本語の「僕、反省します!」の「反省」とは異なって、いわゆる「内省的心理療法」に対するアンチテーゼの意味も含まれているように思われますので、ここでは「脱内省」と訳します。
これは要するに、「自分」から目を逸らすように工夫すること。「自分の内側を見つめる=内省する」習慣をやめることです。そこは先と同じなのですが、フランクルの「脱内省」は一歩踏み込んで、自分の意識を「自分を待っている何か」や「誰か」に向け変えるところまで進めていきます。
フランクルは、人間の精神には「何か」や「誰か」に向かう本質があると考えます。フランクルの「脱内省」は、自分自身に過度に意識が向いている状態を、「本来の、自分以外の他のものに意識が向いている状態」に立て直そうとする方法だと言っていいでしょう。
フランクルは言います。いずれも患者さんへの具体的な助言としてなされた発言です。
「あなたの内側にある困難を見つめないでください。あなたの内側を見つめるのをやめて、あなたを待っているものに目を向けてください。大切なのは、あなたの心の中に潜んでいるものではなくて、未来であなたを待っているもの、あなたによって表現されるのを待っているものです。
とにかく、自分自身に目を向けないことです。あなたの内側で起こっていることを見つめないで、あなたに見出されるのを待っているものを探してください。
症状について話し合うのはやめましょう。不安神経症、強迫神経症、それがどんなものでも、あなたがアンナであるという事実。何かがアンナを待っているという事実を考えましょう。
自分自身について考えないでください。あなたが創造しなければならない作品、まだ生まれていない作品に目を向けてください。あなたがどんな人かは、あなたがその作品を作ることではじめてわかることなのです」
(『意味への意志』)
フランクルは一貫して、「自分の内側を見つめる」のはやめて、「あなたを待っているもの」「あなたに表現されるのを待っている何か」に意識を向けなさい、と言うのです。
悩みぬく意味
「悩みから逃げず、きちんと悩める人にだけ濃密な人生はやってくる」。そうおっしゃるのは、心理学者でカウンセラーの諸富祥彦先生。とはいえ、やみくもに悩めばいいわけではありません。「正しい悩み方」があるのです。著書『悩みぬく意味』は、その具体的方法を伝授してくれる本。いつも悩みがちなあなたにぜひ読んでいただきたい本書から、一部をご紹介します。