皇室の中で生きる意味を見失った雅子さま
雅子さまは、今も療養中である。毎年12月9日のお誕生日に合わせて「東宮職医師団見解」という文書が出されていた。令和になる半年前の2018年(平成30年)の文書でも、「着実に回復しているが体調に波があり、過剰な期待は逆効果だ」ということが説明されていた。
番組を見ながら、こう思った。たとえば、という言い方も変だが、適応障害について国民に語っていただくというのはどうだろうか、と。
雅子さまの適応障害は、「新型うつ」に近いのではないか。精神科医の斎藤環さんは平成の時代、そのような見立てをもとに雅子さまの状況を解説していた。腑に落ちる点がとても多かったので、前著同様その見立てにのっとり、論を進める。
旧来のうつは、生き延びるために頑張りすぎてつぶれる「生存のうつ」。一方、新型うつとは、自分が生きることの価値を見失った時に苦しみが始まる「実存のうつ」。雅子さまは「皇室の中で、生きる意味を見失ってしまったのではないか」というのが、斎藤さんの見立てだった。
実存と生存とは一見わかりにくい言葉だが、「皇室」を「職場」と置き換えれば他人事(ひとごと)とは思えない。実際1960年(昭和35年)以降生まれの人のうつは、ほとんど「実存のうつ」だという。結果だけが求められる職場にあって、生きる意味を見出せなくなる人は多い。仕事ができる、できないとは関係ない。なんのために働いているのか。今の時代、それを考えずに済んでいる人がいるとすれば、それは本当に恵まれた人だと思う。
『美智子さまという奇跡』の上梓後に、斎藤さんと対談する機会を得た。そこで斎藤さんは美智子さまの疎開体験に触れ、疎開とは生存の危機だから、それで美智子さまにはある種の覚悟ができたのではないか、と語っていた。なるほど、美智子さまが皇室で「百点満点以上の結果」を出した背景が納得できた。
対談で斎藤さんは、「実存は中身であって、地位では埋められない」とも語っていた。皇后になってからも雅子さまには「実存」が必要だ、と。
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