●頭がよくて自由で輝いていた、あの頃の早大生
――神様の話はたっぷりうかがったので、ここからはまた『先生と私』に話を戻します。
本の終盤部では、浦和高校合格後に行った北海道への一人旅が詳細に描かれています。ユースホステルに行くと、とにかく大学生とよく出会っているところが当時の雰囲気がよく出ていてとてもおもしろい。とりわけ、大学生がやたらと井上陽水の「東へ西へ」を歌ってばかりいるのがユーモラスでした。
佐藤 今でもよく覚えているけど、とにかく大学生が集まれば「東へ西へ」なんですよ。
北海道はユースホステルの数が多いし、いわゆるバックパッカーのカニ族も多かった。当時の大学生にとっては、北海道に行って全部突端を制覇するのがとにかく通過儀礼なんですよ。大学生のときに北海道に何カ月か行って、宗谷岬、襟裳岬、納沙布岬といった突端に行くのが通過儀礼だった。その後東京に戻って髪の毛を切り、就職活動を始める。そういう時代だったんですよね。
――北海道が通過儀礼のメッカだったんですね。
佐藤 そう、まだ海外には行っていない。それから5年くらい経つと北海道旅行がぐっと減って、海外に出るようになりますね。
――当時、大学生を見てどう思われましたか。
佐藤 大人だと思いました。難しい話をして、電車のなかでもユースホステルでも本ばかり読んでいるんです。当時は大学進学率は3割もない時代だったから、今と比べると相当絞り込まれていたことは間違いない。あと、北海道における早稲田大学の圧倒的な存在力を感じました(笑)。
とにかく早稲田の学生は頭がいいし活動的に見えたんです。早稲田大学というと、ユースホステルで明らかに一目置かれる最大派閥なんですよ。あの当時の早稲田大学の雰囲気は自由で自立性がある。そういう早稲田大学の存在感だったり、当時のユースホステルの雰囲気やカニ族のことも、この作品で記録しておきたいことでした。
●ソ連を訪れた「15の夏」に学んだこと
――この本は、浦和高校の入学するところで終わっていますが、いよいよこの年の夏に、東ヨーロッパとソ連に旅行に行くわけですね。
佐藤 今ちょうど、幻冬舎のPR誌「ポンツーン」で連載していますが、この旅行記だけでも相当長くなりそうなんですよ。
でも、高校1年生でソ連に行けたのは大きかった。行ってみた先のソ連は意外に自由でいい国でした。直に触れているから、その後、ソ連に対して偏見を持たなくなるんです。だから、秘密警察とか権力によって牛耳られているからあの帝国は絶対に瓦解しないといった図式的な見方にひっかからずに済みました。ソ連でも東欧でも、普通の人間たちが普通に生活している。普通の人間たちが不満を持てば、国家というのは滅びるんだと。そういう感覚を外交官になって持てたのは、15歳のときの経験がすごく役に立ちました。
――その後には、浦和高校時代のことをお書きになるんですか。
佐藤 その先のことはまだ決まってないんです。高校時代のことを書くか、予備校時代を書きたくなるか。それは書き上げてみないとわからない。でも、浦和高校について書くのと外務省のことを書くのは大体一緒なんです。
――おもしろいじゃないですか。
佐藤 生徒がお互い「ですます」調で話して、成績の話と進学の話は絶対にしないと。それは過剰に意識していることの裏返しなんですよ。
その成績や進学をモノサシとする世界が嫌になって、逃げる人たちもいます。だけど、私は完全に逃げることもできなくて、当時はその中途半端な感じが嫌でした。完全にドロップアウトしていたら、もっとおもしろかったかもしれないけど、そこまでは行かなかったんです。
――そのどっちつかずの感覚は共感を呼ぶんじゃないでしょうか。続刊を楽しみにしています。
(インタビュー・構成 斎藤哲也)
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