私たちのお腹の心強い味方、腸内細菌。しかし最新の研究で、食生活の乱れやストレスなどによって腸内細菌が異常に増えると、お腹の張り、ガス、下痢や便秘を招く小腸内細菌増殖症=SIBO(シーボ)を発症することがわかってきました!
テレビ出演多数の消化器専門医・江田証さんの新刊『腸内細菌の逆襲』は、慢性的な疲れやだるさ、集中力の低下、がん、動脈硬化、心不全、肝不全などあらゆる症状や病気につながるSIBOを予防・改善するための食事「低FODMAP食」や生活習慣、最新療法をわかりやすく解説しています。
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小腸で腸内細菌が異常に増殖している人が増えています。
「小腸内細菌増殖症」、通称SIBO(シーボ)という病気です。
お腹の張り、ガス、腹痛、下痢、便秘といった症状があるのに、内視鏡やCT検査、腹部超音波(エコー)などの検査を受けてもまったく目に見える異常がない。
原因は精神的なストレスと説明されますが、なかなか薬を飲んでも良くならない。
ストレスが根本の原因ならストレスの少ない休暇中には症状が楽になるはずなのに、そうはならない。ストレスを感じない仕事のない日にも苦しむ。こういう患者さんは「過敏性腸症候群」と診断されます。根本原因も不明で、有効な治療法もまだわかっていないとも言われます。
日本人で過敏性腸症候群に悩む患者さんは1700万人を超え、日本人の中高生においては、なんと実に18.6%の若者が「原因不明」のお腹の不調に苦しんでいるのです。
ほっておくと不登校やひきこもりにつながり、受験や就職などの障害にもつながるのはまぎれもない事実で、私自身は全国から来院されるたくさんの困窮した患者さんを診察して、毎日彼らの苦しみに耳を傾けています。
ただ、最近になって、何百万人もの日本人をこの瞬間にも苦しめている過敏性腸症候群には、小腸に棲んでいる腸内細菌の暴走が関係していることがわかってきました。
もともと小腸には、腸内細菌が非常に少ないのが正常です。対照的に、大腸の中には小腸の数十倍の腸内細菌が棲んでいます。このバランスが崩れ、小腸の中で腸内細菌が大増殖しているのです。
つまり過敏性腸症候群には、「腸内細菌の逆襲」、すなわちSIBOが合併していることがわかってきたのです。
正常な小腸の腸内細菌の数は、1万個程度です。それが、SIBOではなんと1万を優に超える10万個以上と爆発的に増えているのです。つまり、小腸の細菌が約10倍に増える病気がSIBOなのです。
最近の報告で衝撃的な論文があります。「過敏性腸症候群と考えられてきた患者さんのなんと84%は、よく調べてみるとSIBOだった」というものです。SIBOの症状は、過敏性腸症候群の症状とかなり似ています。実際、50の論文のメタアナリシスで、過敏性腸症候群患者のSIBOの発症リスクは4.7倍であることがわかっています。
下痢や腹痛、お腹の張り、ガス、違和感などは過敏性腸症候群に出てくる症状ですが、SIBOの患者にもよく見られるのです。
ほかにも、過敏性腸症候群と診断されていた202人の患者さんにSIBOの検査を行ったところ、157人(約78%)の患者はSIBOだった、という報告もあります。
過敏性腸症候群が疾患として取り上げられるようになったのは、1950年代のことでした。しかし、SIBOが疾患として医学界で問題として強く認識されるようになったのは、ここ数年のことです。したがって、医師にSIBOという病気についての認識がなくても驚くにはあたりません。
SIBOと過敏性腸症候群の症状は非常に似ており、双方の関連性については、実は30年前から議論されていました。
ひとつは、「過敏性腸症候群における腸内細菌の変化がSIBOをもたらす」という考え方。もうひとつは、「SIBOが過敏性腸症候群を引き起こす」という考え方です。
すなわち、片方が片方の先行疾患であるという可能性です。
特に健康な人で見てみると、高齢になればなるほどSIBOになるリスクは高まり、健康な高齢者の約35%がSIBOにかかっているというデータもあります。
つまり、今まで「原因不明」と言われていたお腹のガス、腹部膨満感、下痢や便秘、腹痛といったつらい症状は、小腸の中で爆発的に増えてしまった腸内細菌によってもたらされていることがわかってきたのです。