謎多き縄文時代と現代を繋ぐ歴史ミステリ『縄紋』刊行のお礼参りに、著者の真梨さんと出かけました。前回に引き続き、今回も「武蔵一宮氷川神社」から始まります。
* * *
さて。さてさてさてさて。
大パワースポットである「武蔵一宮氷川神社」の本殿をお参りしたのち、向かったのは、その奥にひっそりとひかえる摂社「門客人神社」です。
アラハバキの正体は
木陰に佇む小さな社ですがその静かな存在感は凄まじく、それもそのはず、この摂社にお参りしないとご利益が半減するとまでいわれる「アラハバキ神」が祀られた神社なのです。
アラハバキ神は、出雲の神が来るまで、この場所に元来いらした地主神。素通りなんて許されるはずがありません。
そして何より、『縄紋』でも描かれている通り、荒ぶる神とも呼ばれるアラハバキはこの世の大きな謎を担っている神様。今回のお礼参りの本丸は、まさしくこちらなのでした。
さて。再三登場します「アラハバキ」。それは一体なんなのか、と、『縄紋』を未読の皆さん疑問に思われているのではないでしょうか。
「アラハバキ。これにかなり反応していたじゃないですか」
「まあ、それは否定しない」
「思ったんですけど。“アラハバキ”の“ハバ”って、“蛇”のことじゃないですかね? 古代、“蛇”は“ハハ”と呼ばれていましたから」
「だとして。……“アラ”と“キ”は?」
「“アラ”は、“現人神(あらひとがみ)”の“現(あら)”じゃないでしょうか?」
興梠は、目をキラキラさせながら、テーブルに転がっていた鉛筆を拾い上げ、ゲラの端に「現」と書き殴った。
「“現人神”とは、言うまでもなく、人の姿となって現れた神っていう意味です」
興梠は、続けて、「現蛇」と書き殴る。
「これで、アラハバ。つまり、蛇の姿となって現れた……という意味です」
「じゃ、最後の“キ”は?」
「“キ”は“岬”のことじゃないでしょうか? 岬は、古代、“キ”と呼ばれていたそうです」
言いながら、興梠は、「現蛇」の下に、「岬」と書き殴った。
「これで“現蛇岬”です。つまり、アラハバキは、蛇を祀った岬……という意味なんじゃないかと」
「……なるほど。“岬”か。大宮の氷川神社をはじめ、神社はたいがい、台地の突端、“岬”にある。海と台地の境目である“岬”は、古代、聖地なんだよ」
(『縄紋』より抜粋)
もともと禁足地だった蛇の池
氷川神社とアラハバキ、そしてアラハバキと蛇の関係が少し明らかになったところで、私たちの不思議な体験をご報告します。
門客人神社のお参りをした後、神社に置かれていた境内の地図を手に、この後のルートを確認していました。すると、地図の中に「蛇の池」というものがあるのを発見。『縄紋』でアラハバキと蛇との関係を書いてらっしゃった真梨さん。以前にこちらにお参りに来られたこともあり、その存在もご存知かと思っていましたら、「知りませんでした!」と目をぱちくり。
これは神の思し召し! と蛇の池に向かったのですが……。
ちょうど、蛇の池の入口に差し掛かったところで雨がポツポツ降り始めます。小雨の中、奥にある蛇の池へと急ぎます。
氷川神社には大きな池があります。そこはかつて「見沼」と呼ばれ龍神がいたと言われる神池で、今も氷川神社の池は大きなパワースポットです。そして、池の先、駐車場のすぐ隣り、もともと禁足地だった場所に、見沼の源流の一つである「蛇の池」の湧き水が再現されています。
雨のせいか暗くひっそりとした蛇の池は、目を凝らして見ると何かが見えてしまいそうな独特の気配を漂わせていました。
偶然とは片付けられない出来事
蛇の池にお参りしている最中だけ降り続いた雨は、少し雨脚を弱め、私たちは参道を歩いていた時の約束通り、参道沿いにある「氷川だんご屋」さんで雨宿りも兼ねてお茶を。「帰りに焼きまんじゅうや、醤油だんごを買って帰りましょう」なんて言いながらも私たちの心がそわそわするのは、以前、『縄紋』の執筆中に、小説にも登場する都内の極楽水に散歩に行った時のことを思い出していたからでーー。
弁財天を祀る「極楽水」でお詣りした後、それまで晴れだった空が一気に曇って大雨に打たれた私たち。
「あの時みたいに大雨になる前に帰りましょう」と真梨さん。「そうしましょう」と二人で一目散にお店を出ました。気もそぞろで、もちろんお団子も買い忘れて……。
「先日、家の蛇口から大量の水が出て」
と、真梨さんが不思議体験をその日の朝、語られていたことは後日また触れさせていただくとして、氷川神社と、蛇と雨と、アラハバキと……。偶然で片付けられないつながりをひしひしと感じるミステリ世界を、ぜひ『縄紋』でお楽しみくださいませ。
住所:埼玉県さいたま市大宮区高鼻町1-407
電話番号:048-641-0137
電車:「JR大宮駅東口」から徒歩約15分
和製ダ・ヴィンチ・コード『縄紋』
縄紋、と聞いて、「何それ?」と思ったあなた。
実は、あなたが欲しいマンションの価格も、日本人に糖尿病が多いのも、ヤンキー坐りの発祥も、神社に鳥居と参道があるのも、謎の病気が流行るのも、最近フェミニズムが台頭しているのも、隣りのあの人が消えたのも、殺人が起こったのも、ぜんぶ「縄紋」のせいかもしれません。
イヤミスの女王、真梨幸子さんの新刊『縄紋』発売記念特集です。