『事故物件怪談 恐い間取り』をはじめ、事故物件住みます芸人・松原タニシさんの著書の大ファンである真梨幸子さん。事故物件をお題にした対談で昨年出会って以来、意気投合した2人が『縄紋』刊行を記念し、再びまみえることとなりました。タニシさんの手にある『縄紋』には、おびただしい数の付箋が。まずは、小説の成り立ちを語りはじめる真梨さんですが……。
* * *
お礼参りの前々日、寝ていたら耳元で、“ザァー……”
真梨 今、住んでいるマンションの部屋を購入するとき、過去に事件とかがあったら嫌だなと思って、相当、地歴を調べたんですよ。江戸時代の古地図まで。
松原 古地図まで?
真梨 ええ。取り寄せて、調べて、調べて。あ、大丈夫だ、ここは昔、武家屋敷があったところだと。そうこうしているうちに、建設中に縄文時代の遺跡が見つかったということを知ったんです。
松原 えっ? そこからのこれなんですか? そこからの『縄紋』?
真梨 そう、そこからの(笑)。だからね、ある意味事故物件なんですよ、今、住んでいる部屋も。
松原 どこからどこまでが、本当のことなのか、この小説……。
真梨 私が実際に経験したこともエピソードとして散りばめてあります。
松原 あぁ、だからリアルな地名もいっぱい出てくるんですね。
真梨 都内にある、弁財天を祀る“極楽水”にお参りしたときに、それまで晴れていた空が俄かにかき曇り、凄まじい大雨に打たれたこととかもね。
松原 あぁ、主人公たちが遭遇する……。
真梨 刊行した後も、不思議なことがありましてね。最近、作中にも登場する、大宮の氷川神社に刊行のお礼参りに行ったんですけど。
松原 女体社のあるところですか? 僕も行きましたよ! 心霊スポット巡りでたまたま見つけたんです。女体社ってなんやろ?って。
真梨 もともとは氷川神社と呼ばれる前に地元の人が祀っていたところで、今、大宮にある氷川神社は後にできたものらしいんです。そもそも氷川神社と女体社はいつもセットなので、それも以前からずっと不思議だったんです。
松原 いつもセットなんですか?
真梨 ええ、夫婦みたいな感じで。そこで氷川神社をいろいろ調べたら、“縄紋”というキーワードが出て来まして、小説のなかに組み込んでいきました。お礼参りにも行ったんですけど、その前々日くらいかな、寝ていたら耳元で、“ザァー”って音がするんです。“え、何?”って、家のなかを調べてみたら、なんと水道の蛇口が全開だったんです……。
松原 えーーーっ!
真梨 私、すごく神経質なので、いつもすごくチェックしてから寝るので、絶対、開けたままのはずないんです。うちには猫がいますけど、猫がいたずらして開けられるような設計でもない。しかも猫は私の部屋で一緒に寝ていたので。
松原 やっぱり古代の何かって、なんか起こしよるんですよ。
真梨 起こしよりますよね。
タブーは“オカルト”でコーティングされている?
松原 古地図と言えば、徳川家康以前の江戸って、あまり記録が残ってないんですよね。
真梨 ええ。だから江戸ってもしかしたら、ちょっとタブーな感じの地域だったんじゃないのかなって思うんです。
松原 なるほどね。
真梨 栄えてはいたんだけど、“あんまり触れちゃいけない”みたいな地域だったのかなと。
松原 それは当時の西日本の人からすると、“違う人間が住んでいる”みたいな?
真梨 まさにそうですね。アメリカでいうところのインディオみたいな異界の部族が住んでいるような。それで西日本と東日本がくっきり分かれていたのかなと。
松原 いや、面白いなぁ。
真梨 だからオカルトスポットと言われるところを見ると、かつて禁忌だった場所を、オカルトでコーティングしている伝説や神話が多い感じがするんです。
松原 そうですね。征服された側の土地って歴史を消されるわけじゃないですか。きっとそこに残っているものが、なんかしらの現象を起こしよるんですよ。
真梨 私、今日、タニシさんにお話ししたいことがあって。
松原 はい、なんでしょう。
真梨 20年くらい前に怪奇現象が続く団地として、有名になっていたところがあるんですけど、そこ、タニシさんも行かれていますよね。
松原 岐阜の? 行きました。ほとんどの部屋でポルターガイストが起こるという。
真梨 それです。いろんな新聞や週刊誌が取材に行ったところ。
松原 霊媒師もいっぱい行った。
真梨 物理学者とか、いろんな人も行ったんだけど、結局、原因がわからないということでうやむやになってしまった。それが、あるオカルトマンガで検証されているものを見つけて。あの場所、古墳と神社に挟まれている、神様の通り道なんですって。建ててはいけないところに建ててるらしいんです。
松原 やっぱり古墳は何か起こしよりますね。いわゆる土地の事故物件ですもんね。
(次回につづく……)
(聞き手・文 河村道子)
和製ダ・ヴィンチ・コード『縄紋』
縄紋、と聞いて、「何それ?」と思ったあなた。
実は、あなたが欲しいマンションの価格も、日本人に糖尿病が多いのも、ヤンキー坐りの発祥も、神社に鳥居と参道があるのも、謎の病気が流行るのも、最近フェミニズムが台頭しているのも、隣りのあの人が消えたのも、殺人が起こったのも、ぜんぶ「縄紋」のせいかもしれません。
イヤミスの女王、真梨幸子さんの新刊『縄紋』発売記念特集です。